インディーズバトルマガジン QBOOKS

第16回1000字小説バトル
Entry34

アミーゴ

作者 : あきら
Website :
文字数 : 985
「駄洒落は悲劇か喜劇か」
「駄洒落? くだらないな」
 Sの家で小宴会を始めてから数時間。SとAは太宰治を真似て、
悲劇名詞、喜劇名詞の当てっこをしていた。Sが出題し、Aが答え
る。最初はもっとまじめにしていたのだが、いつの間にか駄洒落に
なり、ついには駄洒落がお題となった。
「くだらない? なぜ」
「答えるまでもないね」
「じゃあ、くだらないは悲劇か喜劇か」
「ハハハ。駄洒落のつもりかい。”くだらない”は名詞じゃないよ。
でも、喜劇さ」
「なぜ」
「我々は笑うしかないだろう」
「我々はくだらないのかい。じゃあ悲劇じゃないか」
「いいや、違うね。笑い笑われ、皆、喜劇さ。人間、皆、平等って
ね」
「……ずいぶん酔ってるね」
「ハハハ。ところで、都子さんはどうしたんだい」
 都子はSの妻である。
(ハハーン、さては喧嘩でもしたんだな。だから僕を呼んだのか)
「おい、都子さんの実家に電話したのかい」
 SをからかうA。しかし、Sの反応はない。しばらくして、Sが
口を開いた。 
「……運命は悲劇か喜劇か」
「なんだい口を開いたと思ったら。運命は……悲劇だろ」
「なぜ」
「僕はロマンチストだからね。ああ、運命のいたずら、ああ、悲劇
の二人、さ」
「どんな運命でも?」
「ムムム。妻に逃げられる。悲劇だね。ハハハ」
 沈黙。Sはなにも言わない。
「どうした、怒ったのか?」
「……いいや、怒っちゃいないよ。まぁ、ちょっとね。実は妻に無
断で高いワインを買ったんだ。それで喧嘩してね、このとおりさ。
ところで飲むかい? そのワイン」
「いいのか?」
「ああ。僕の味方をしてくれるのならね」
「もちろん。僕たちは友達じゃないか」
「……友達、ね」
              
 Sの遺書の内容。
 都子へ。
 君が僕を殺そうとしていたことは知っている。僕を愛していない
ことも知っている。なにやら薬を買っていたことも知っている。そ
れを僕の好きなワインに入れたことも知っている。
 それをどうしたかわかるかな。Aに飲ませたのさ。君の大好きな
Aにね。わかるかい。君はAを殺したんだ。君の薬でAは死んだん
だ。Aを愛した君がAを殺したんだ。僕を殺そうとしてまで愛した
Aなのにね。君が殺したんだよ
。わかるかい。君が殺したんだ。愛するAをね。君が殺したんだ。
 
 僕は死ぬ。Aのように君に殺されるのではなく、僕は自殺する。
 
 残念だったね。君はなにもかも失敗したんだ。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。