インディーズバトルマガジン QBOOKS

第16回1000字小説バトル
Entry35

幸福追求

作者 : サトコフ
Website : http://www.butaman.ne.jp/~satokov/
文字数 : 1000
「ブラックホールを消滅させに、ちょっと行って来ます」、と北海
道は宗谷岬を目指してSが大阪を発ったのはほぼ1ヶ月前で、しか
しSは、宗谷岬にたどり着く前、通過点であるはずの旭川にて『ば
んえい競馬』なるものにドップリと狂熱、すっかり身銭を失ってし
まうに至ったのであるが、人間万事塞翁が馬、心優しき道民の方々
から暖かい御支援を頂き、今では町の製材工場にて労働、神聖な汗
を流す充実ライフを過ごしている、だからお前もがんばれよ、なん
て手紙が届いたのは今朝のことだった。

 同い年ではあるが舎弟であったはずのSが、このようなタメ口文
章を書き連ね、あまつさえ送りつけてきたその行為について、若干、
怒りの心境をおぼえたのは事実だが、いやいやまてまて、あの絶望
が服を着て歩いているようなSが、そのような成り行き的幸福を手
に入れられるワケが無い、ヒーイズ無力、どうせこの手紙もSの幸
福追求に由来する強がりに過ぎぬ、と疑ってかかると、案の定、封
筒の消印は「吹田郵便局」となっていた。吹田は大阪のベッドタウ
ン、吹田はSの住む街。北海道のほの字も関係ない。

 謀略を暴いた僕は、午後、うだる暑さの中、Sのアパートを強襲
した。
 分厚いカーテン、電灯は消され真暗な部屋の中、冷房を18度に
設定した上で、毛布にくるまってドロリと澱んだ目のS。ミスター
絶望の名にとてもマッチした光景であった。

「みんな無に還って死ネ死ネ」と、感情の決壊をギリギリくい止め
ている声でSは言った。なるほど、旅中、土地土地の人々にブラッ
クホール話を持ち出しては、手酷く小馬鹿にされ続けたのであろう。
発つ前から安易に想像できたことだったし、まあ仕方ない、ここは
いつもの戦法で救うことにしよう。
「みんなって、君も無に?」と、僕は言った。
「え、え? そ、そう、も、もちろん、ち、チッポケな僕も」
「それじゃあ困る」
「こ、困る? な、なんで?」
「ここに悲しむ人がいるから」

 みるみるうちにSの表情はテレつつ回復、ついには「ウワッシャ
ッシャー」と最高の幸福表現をとるに至った。5分後には、「明日
昼メシ食いに行きましょう! 奢ります!」を言わせしめ、無事冷房
も26度となった。カーテンも開いた。

「じゃまた明日、奢られに来るよ」と、部屋を出た僕はその足で、
徒歩5分にあるSの母親宅へと向かい、金2万円を、「今日の友達
料」として頂いた。
 だから悲しむ人がいるのよん、と僕は心の中で呟き、スキップで
帰った。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。