第16回1000字小説バトル
Entry6
「もういい加減にしろ、薄気味悪いやつだな」 父親の和己のこぶしが、光彦の頭に飛ぶ。「だって見えるんだも の。あのおじさんの頭には41、おばちゃんは38、お姉ちゃんには 13、おばあちゃんには73とか、みんな数字が書いてあったんだよ。 うそじゃないもん、本当だもん」 4歳の子どもの力とは思えない勢いで、光彦は抵抗を続ける。 「あなた、もうやめて」と喜美子は叫ぶが、和己はさらに光彦を 狂ったように殴りつづける。「殺してしまうつもりなの、ただこの 子は、任の寿命が見えてしまうだけなのよ。誰だって子どもの頃は、 冷汗を持ってるものなの。それがたまたまこの子は、強く現れてる だけじゃない」 見る見るうちに、光彦の顔は腫れ上がっていく。しがみつく喜美 子の顔も和己は思い切り殴りつけた。 「こいつはな、知ってやがるんだ。俺が何をしたかをな。そうじ ゃなきゃ、俺の顔に33とかいてあるなんて言やがらねえだろう」 「あなた、いったい何を言ってるの」 「うるさい。せっかくあの馬鹿上司、自殺で片付いたのに。横領 の罪までかぶってくれてな。放火による一家心中のおまけまでつけ てな。ああ殺したのは俺だよ、家族ぐるみで仲良く付き合ってる振 りをして、あいつは俺の横領に気が付いた。金をよこせといってき たんだ。あんなはした金、この家の頭金に消えてるよ。だから!」 「だからあの時、あんなに怯えたのね。啓司が事情聴取にきた時」 「このクソガキ、あいつらの頭に数字が書いてあった、おまけに 俺の頭に数字が書いてある、とまで刑事の前で言いやがって」 もう光彦の体からは、完全に力が抜けていた。白目をむき出して いる。「こいつさえいなきゃ、何も思い出すことはないんだ。お前 もだ、おまえが家さえほしがらなきゃ、あんな金に手をつけなかっ た」 和己の手にはいつしかビール瓶が握られていた。グシャッという鈍 い音と同時に、喜美子も畳に倒れた。 「ああ、パトカーだ。隣のばばあが電話しやがったな」 家の前でサイレンが止まった。警察官が今、まさに家に入ろうとして いる。呆然と立ちすくむ和己の足元で、白目をむいた光彦の口だけが 動いている。「本当でしょパパ、見たくなかったのに」
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