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第16回1000字小説バトル
Entry8

傷のある壁

作者 : 小山良造
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文字数 : 966
 連続婦女暴行殺人犯ついに逮捕、という記事が新聞の一面を飾っ
た。
 本文。犯人は警察をひどく嫌っており犯行をすべて否定している
が、たまに犯行をほのめかすような発言をしているとのこと。犯行
は極めて残忍で、屍姦行為の後、カニバリズムもあった模様。また
五年前に被告の妻、K・Aさんも暴行殺人によって死亡しており、
同被告の犯行である可能性が高い。
 三か月後、ついに被告の銃殺刑が執行されることになった。ここ
のところ被告は、犯行こそ認めないものの非常に穏やかで、以前の
ように警察に毒づくこともなかった。たった一人の面会人、彼の恩
人と名乗るあの男が来てから一週間は。
「なぜそんなに警察を憎むのだ」
と何度聞いたところで、被告は目をぎらつかせ、口髭を歪めて不敵
に微笑むだけで黙して語らない。被告は最後に手足を縛られたまま
銃弾で傷だらけになった壁を見た。そして執行人が彼に目隠しをし
た。
「最期に言い残すことがあれば聞いておくが」
被告は少し考えこんだ後、歪めた口髭をぺろりと舐め、つぶやいた。
「なあ、あんた。次にここに立った人に聞いてくれないか。『目玉
はどんな味だったか』とな」
「………」
「世の中いろんな商売があるが『とむらい屋』なんて商売があると
はな。俺は先週、奴の望むものをなんでもやると契りを交した。そ
のかわり奴が仇をとってくれる。俺が心底憎いと思った人間を、す
べて食い殺してくれる」
「でたらめを…」
「俺の妻が狙われていると警察に助けを求めたとき、警護してくれ
ていれば、俺はこんなにたくさんの人を憎むこともなかっただろう。
でも、もう遅いのだ」
 被告の不敵な笑みはいつの間にか歯ぎしりに変わっていた。彼の
八重歯が血濡れた牙のように見えた。
「なあ、あんた。あんたは俺がすべての真犯人だと思うか。どうだ」
執行人はたまらず手をあげて合図をした。 
 被告は吠えた。
「どうなんだ! ええっ! おまえも俺のことを! 」
 ゴングのように銃声が鳴ってとたんにすべての雑音が消え、被告
の重力に屈する音だけが響いた。
 「この手の話は執行人を永くしてるとたまにあるんですよ。だい
たい契りを交したと言ったってなにをあげるんですか。彼にはほん
のわずかな貯金しかないのですよ」と彼は言って、遺体の目隠しを
外した。一同は凍りついた。食いちぎられたような傷跡を残して、
遺体の両目がなくなっていたのだった。
 一体、真犯人は誰なのか。






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