インディーズバトルマガジン QBOOKS

第16回1000字小説バトル
Entry9

相合傘

作者 : yutaka izumihara
Website : http://www.aftrs.edu.au/tower
文字数 : 864
ヒロポンを手にしたとき、俺は神になった。
狂い行く社会を破壊するシバ神。

大島竜之介が美恵子に惚れたのは、幸がなさそうな、貧相な容貌
だったからだ。想った通り、裸体も貧弱で、まるで、木像のダッ
チワイフだった。薬づけで、目の下は黒く、髪は陽炎のように逆
立ち、人の不幸を喜んだ。
こいつは、俺にぴったりだと、竜之介は嬉しくなった。

竜之介は末期癌だった。
医者からは半年もつかどうかわからないと告知された。
金はある。
どうせ死ぬのなら、好きなことをさせてやろうとする親のエゴか
らいくらでも仕送りしてきた。
俺は死ぬ。
笑うガキがうざったい。
何がそんなにうれしいんだ、この糞ガキ。
竜之介の前に転がっているのは、苦しそうに血を噴き上げている
餓鬼だった。
竜之介は美恵子の裸体をチャコールで描いた。
ムンクの『おたけび』よりひどかった。手で塗りつぶし、
ケタケタ笑う美恵子をお多福になるまでぶった。
それでも、美恵子は、ケタケタ笑った。それをみて、竜之介も笑った。
虚ろな目で歌う、ニルヴァーナのMTVを見ながらマスターヴェ
イションをした。行く瞬間、美恵子の顔に吹っかけ、美恵子にぶ
たれた。竜之介はちゃぶ台で血が滴るほど額を打ちつづけた。活
かしたビートを繰り返す竜之介を見て美恵子が可笑しくて腹を抱
えた。

二人が病院に現れたとき、受付の女の子は、ギョッとした。出目
金のような女に、額のザクリと抉れた男。宇宙人の侵略かと思っ
たわ、彼女は後に同僚に言った。

次に二人が現れたのは、VIDEO屋だった。デヴィット リン
チの『エレフャントマン』をもさっと持って、これ借りる、と言
った。店員はどっきりカメラか、いたずらかと思った。
後に、エレフャントマンの本物が来たと思ったよ、と同僚に話す。

家主が二人の遺体を見つけたのは延滞した家賃を取りにいったと
きだった。
互いの手首を紅い紐で結び、涼しげに死んでいた。
検察官が自殺ですねと言った。
ちゃぶ台にはヒロポンと睡眠薬が散らばっていた。
家主が後に、困るんだよね、自殺されると、入り手がないからね、
と困憊して妻に話した。ちゃぶ台の上にあった三十万近い金を懐
に入れたことは誰にも言っていない。

竜之介と美恵子は『エレフャントマン』を観ていた。普通の人に
なりたがったマイケルを観ていて、死のうかと竜之介が言った。
美恵子はケラケラ笑って肯いた。
二人は畳にへばりついていた紅い紐をお互いの手首に縛りつけ、
ヒロポンを射ち、
ケラケラ笑いながら、泣きながらキスして睡眠薬を飲み込んだ。






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