インディーズバトルマガジン QBOOKS

第17回1000字小説バトル
Entry25

それぞれの約束/すれ違いの約束

作者 : ショート・ホープ
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文字数 : 1000
『約束すっぽかして何やってんのよ!』
 携帯からの怒声が耳元で響いた。どうやら女性の声らしい。
 一瞬何のことかさっぱり理解できなかったが、結局理解できなか
った。    
「あのですね。番号を間違っていませんか?」
 ひとつひとつの数字を吐き捨てるように読み上げる声が聞こえる。
声からして歳は僕とだいたい同じ。もちろん中学生の少女の中にも
大人っぽい声を、四十を過ぎても若い頃の声を保ち続ける主婦も少
なからずいるが。
 読み上げた番号は頭から最後までの11桁は確かに僕の携帯の番
号だった。
「番号は合ってます。たぶん携帯への入力ミスでもしたんじゃない
ですか?第一、僕の声を聞いて人違いだと解らないのですか?」
『もしかして私が間違っているって言うの?冗談じゃないわ。そん
な下手な言い訳やめなさいよ!』
「じゃあ、僕の名前は?住所は?歳は?」
『そんな言い方するの?』
「答えになっていませんよ。それに約束ってなんですか?」
『何よそれ!あなたから約束したんじゃない!』
 埒が明かない。堂堂巡りだ。
「とにかく、このざわめきが聞えませんか?これから馬鹿な酔っぱ
らいになろうとしているんです。という訳でさようなら」
 電源を切った。
「なんだか深刻な話みたいだったけど」と右隣の友人が興味深そう
に訊いてきた。
「ただの間違い電話だよ」
「女だろ。オ・ン・ナ。ほらほら、もっと飲めよ」と左隣の友人が
言い、アルコール臭いげっぷをした。
 
 うっすらと目を開ける。気が付くと僕はベットに横たわっていた。
ベット?僕の部屋にベットなんてない。薄っぺらな蒲団のはずだ。
確か僕は酔って・・・・。酔い潰れてからの記憶がない。いつもそうだ。
要領の悪い酔い方をする。だが不思議なことに頭が痛くない。
「約束覚えている?」
 誰かが耳元で囁いている。この声は知っている。そう、あの携帯
の女の声だ。
 少しずつ少しずつ僕は目を閉じていく。意識とは違う自分が目を
閉じさせる。なぜか恐怖感がない。恐怖とは何かもわからない。や
はり僕は酔っている。どうしようもなく酔っている。
 約束。彼女は約束と言った。約束約束約束・・・・。
 その思考作業は針の穴に糸を通すような試みだった。しかし、そ
れは不可能だった。穴が小さ過ぎるし糸の先がほつれているのだ。
 瞼が重い。深い眠りが身体を支配していく様がよくわかる。
 朝になれば絶対、きっと、たぶん思い出すかもしれない。
 そして目覚めたときには・・・・






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