第17回1000字小説バトル
Entry8
今夜、あたしは死にました。 あの人があんまり淋しいと泣くので、一緒に逝ってあげたのです。 でも、ここはものすごく冷たくて、さっきから腕が見つからない。 あなたとつないでいたハズの、左手がどこにも見つからない。 やだな……薬指には、大事な指輪がはめてあったのに。 あなたの恋人だっていう、証しの指輪なのに。 彼のひいおばあちゃんの代から、あの家のお嫁さんに贈られてた、 由緒ある指輪。 そしてそれを、あたしは彼からもらった。 彼があたしの為に用意しておいてくれたのを、あたしが見つけて内 緒ではめたんだ。 彼を喜ばせるために。 あたしも愛しているのよって、あなたに見せてあげる為に。 指輪はあんまりぴったりで、抜けなくなっちゃったけど、あの人と 永遠に一緒にいられるようで、 あたしはとってもうれしかった。 指輪は離さない。 あの人も渡さない。 だから、死ぬ時も一緒よ。 あの人が死にたいというのなら、あたしも一緒に死んであげる。 あなたとあたしは、永遠に一緒。 なのに、なんで指輪がないの? なんで左手がないの? そういえば、飛び込む前に、あの人、なにか言ってたわよね。 あたしの左手を握りしめて、強く強く握りしめて、 「愛しているよ」 それから、 「だからね、一人で死んで……」 ────ああ、全部思い出した──── あの人はあたしの腕をとって、なたで切り落としたんだった。 「これは君のじゃないんだよ。抜けなかったら切るしかないよね」 優しく笑ってあの人は、木を切るように腕を落とした。 平然と。 それから泣叫ぶあたしを冷たく暗い海の中に突き落としたんだ。 ……そっか、彼はあたしを愛してはいなかったのね。 だから、指輪を取りかえす為に、あんなひどいことを。 でもね、あたし、言ったでしょ? あたしとあなたはずうっと一緒。 ほら、冷たい水の中、唯一残ってる右手の感触。 あなたの髪。 あたしたち、一緒に死にましょう。
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