インディーズバトルマガジン QBOOKS

第17回1000字小説バトル
Entry8

心中

作者 : 織原桐哉
Website : http://www.geocities.co.jp/Bookend/6772
文字数 : 784
今夜、あたしは死にました。
あの人があんまり淋しいと泣くので、一緒に逝ってあげたのです。
でも、ここはものすごく冷たくて、さっきから腕が見つからない。
あなたとつないでいたハズの、左手がどこにも見つからない。
やだな……薬指には、大事な指輪がはめてあったのに。
あなたの恋人だっていう、証しの指輪なのに。
彼のひいおばあちゃんの代から、あの家のお嫁さんに贈られてた、
由緒ある指輪。
そしてそれを、あたしは彼からもらった。
彼があたしの為に用意しておいてくれたのを、あたしが見つけて内
緒ではめたんだ。
彼を喜ばせるために。
あたしも愛しているのよって、あなたに見せてあげる為に。
指輪はあんまりぴったりで、抜けなくなっちゃったけど、あの人と
永遠に一緒にいられるようで、
あたしはとってもうれしかった。
指輪は離さない。
あの人も渡さない。
だから、死ぬ時も一緒よ。
あの人が死にたいというのなら、あたしも一緒に死んであげる。
あなたとあたしは、永遠に一緒。
なのに、なんで指輪がないの? なんで左手がないの?
そういえば、飛び込む前に、あの人、なにか言ってたわよね。
あたしの左手を握りしめて、強く強く握りしめて、
「愛しているよ」
それから、

「だからね、一人で死んで……」
 
 
────ああ、全部思い出した────
 

あの人はあたしの腕をとって、なたで切り落としたんだった。
「これは君のじゃないんだよ。抜けなかったら切るしかないよね」
優しく笑ってあの人は、木を切るように腕を落とした。
平然と。
それから泣叫ぶあたしを冷たく暗い海の中に突き落としたんだ。
……そっか、彼はあたしを愛してはいなかったのね。
だから、指輪を取りかえす為に、あんなひどいことを。
 
 
でもね、あたし、言ったでしょ?
あたしとあなたはずうっと一緒。
ほら、冷たい水の中、唯一残ってる右手の感触。
あなたの髪。
 

あたしたち、一緒に死にましょう。






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