第18回1000字小説バトル
Entry10
「なあ、一番有効な金の使い道ってなんだと思う?」 生まれて初めてのバイト代を手にした僕は、何気なく仲間に訊い てみた。「相変わらずつまんない事考えてるね」 氷のいっぱい詰まった、薄そうなレモンソーダを口に付け、ユウ ヤが目を細める。 「そんな事決まってるじゃん、飲み食い。ぱーっと行こうよ」 おごってー、が口癖のカナコは言う。口にはかろうじて話が出来 るくらいの隙間を残して、ハンバーガーが詰め込まれている。 「ばっか、貯金に決まってるだろ? 家を建てるなら今から貯金だ よ」 夢は家を建てること、と公言してやまないアキは言った。 「クミは?」相変わらず口をもぐもぐさせながら、カナコが訊いた。 クミは俯いた顔を上げ、言いにくそうに片目を瞑って見せた。 「貸して、くれない?」そう言ってぺろっと舌を出す。 代わりにユウヤが下を向き、ずるずるっとレモンソーダを啜りだす。 口には出さなかったが、ここに居る全員があきれ返ってため息を漏 らしたに違いない。なにしろこの間カンパしたばかりだったからだ。 人の命ってなんだろう。産んでから殺すと殺人なのに、まだ16の 彼女は静かに2人の子供を殺す。道徳と背徳、男と女、犯罪と病気。 しかし、僕のこの感情は正義という常識なのか? おひとよしのカナコは大丈夫? とそう訊いた。打ち消すように 僕は口を開く。 「ごめん、本当は親に借りてた金返すんだ。つまんない事言って悪 かったな」 その一言でしらけてしまった僕たちは、店を出て別れた。 いつもの癖で、ポケットに手を突っ込む。ささやかな肉体労働で得 た金は剥き出しで三万円ばかり。それが指に触れた。 一人になった僕は、商店街をただ歩く。色とりどりの看板が目に 入る。本屋、レコード屋、ドーナツ屋……。あれもこれも欲しかっ たハズなのに……。気が付くと商店街は終わってしまった。 ふと思いつき、駅の前で立ち止まり、あたりを見た。田舎町の駅 舎は人気も無く閑散としている。慌ててポケットから三万円を出し、 そっと地面へと置いた。発車のベルが鳴っている。小走りになり、 急いで定期を見せ、改札を抜けた。赤い色の電車に飛び乗り、入り 口のベンチに腰を降ろす。心臓の鼓動が聞こえる。含み笑いが自然 と出て、止まらない。笑いながらいろいろな想像をした。出来るだ け愉快な想像を。 目の前のおばあさんかこっち見て、訝しげな顔をした。 僕は笑いすぎたせいか、ちょこっとだけ涙がでた。
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