インディーズバトルマガジン QBOOKS

第18回1000字小説バトル
Entry11

知らないあいだに、さようなら

作者 : 小沢 純
Website : http://user3.allnet.ne.jp/ozawajun/
文字数 : 1000
  一ヶ月、あれからちょうど一ヶ月。

 一応、チャイムを鳴らしてみたの。留守じゃなかったら逃げちゃ
おうかなって。でもやっぱり留守。それで、合い鍵で扉を開けた。
一ヶ月、部屋はなんとなしに違う。ふ〜ん、ちゃんと片づいてる。

「私が居なくても一人で出来るんだ…」
もしかしたら、お母さんが面倒見ているのかな?
な〜んだ、心配してちょっと損した気分。
これなら、ほっといても大丈夫ね。

 ベッドの上にキティーちゃんの縫いぐるみがあった。一人で買っ
たのかな? ホントは、寂しいのね。素直に電話してくればいいの
に…、と思った。

 そして、また一週間。
同じように扉を開けた。洗面台に化粧品発見。
「あら…? おかあさん? 私と同じ化粧水」
また、形跡を残さないように鍵を掛けてきた。

 夜になって、キティーちゃんが気になりだした。だって、化粧水
と縫いぐるみってお母さんじゃないよね? お姉さん居たっけ?
それとも、新しい彼女できたのかな? まさかね。
でも、そんなこと聞けないよ。

 一ヶ月と一週間前、彼が終わった後、ベットの中で彼に言った。
「私たち、少しの間 距離を置かない?」
アキラは、私の髪を撫でながら答えた。
「サキがそういうんなら、いいよ」
あんまり、あっさりOKされちゃったので、拍子抜けしちゃった。

 私たち、付き合いはじめて五年。二人とも就職して、このままず
るずると結婚かなぁって思ったら、ちょっと離れてみたくなった。

 一ヶ月たって、逢わなくても私は平気みたいだけどと思えるよう
になったけど、ちょっとアキラが心配で訪ねてみた。でも奇麗に片
づいている部屋が私を拒絶しているように感じて、そっと出てきた。
縫いぐるみも化粧水も、気にならないことはなかったけれど。

 今朝、電話した。
そしたら、
「おかけになった電話は、現在使われておりません」
ってテープが流れていた。

 えっ?と驚いてすぐに部屋を訪ねた。新しい入居者に宛てた電力
会社のパンフがドアのノブに下がっていた。合い鍵を差し込んだけ
れど、鍵は回らなかった。

 頭の中が、白くなってゆくのが分かった。
「アキラ、だまって引っ越しちゃったんだ」
あれから二ヶ月。待たせすぎたってこと?
ひどいよ。電話もくれないで。

 二人で歩いた道を駅に向かって歩きながら、ひどいのは私だった
かもしれないと思った。橋の上で立ち止まった。

「さよならは、いつだったんだろう?」

 川に投げ込んだ合い鍵は、音もなく水に消えた。






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