インディーズバトルマガジン QBOOKS

第18回1000字小説バトル
Entry14

瞬間芸

作者 : 北原伸哉
Website : http://www.m-n-j.com/medianetjapan/henjin/index.html
文字数 : 942
 空から物が降ってきた。寝ぼけた視界をふさぐようにして向かっ
てきたので、「あ、オレ死んだわ」と早くも緊張は解けたが、顔に
当った瞬間、確かにオレは死んでいた。

 三秒ほどして、「生きている」事が確認できた。物に押し潰され
たはずの顔にも痛みはなかった。横を見ると、ただ図体がでかいだ
けのダンボール箱が転がっていた。

 このときの変な気持ちを示すのには何という表現を使えばいいの
だろうか。喜びと怒りと安堵と、ホンの少しの好奇心が混ざり、絶
妙なハーモニーで無と化した、そんな放心状態を分かっていただけ
ますでしょうか?

 ダンボールに命を感じた。「ワレ、ホンとに生きとるんかい?」
と、皮肉っぽい囁きを投げかけてくる。ついつい、苦笑が漏れた。
「知らん!」 これは、オレの言葉だ。

 自分の命を説明するのは不可能だ。説明自体に意味がない。もっ
と言えば、ダンボールの彼が生きているのか命がないのか、実はそ
れすら誰も知らない。凡ては言葉遊びで、だからこそ「言霊」なん
て発想が此の世に存在するのだろう。……どうでもいいか。

 顔の二倍の面積、体積にしたら四倍ほどの硬質な箱は、角がつぶ
れていた。骨折らしい。

 高い所から飛び降りたら、例えダンボールといえども負傷は免れ
がたい。打ち所が悪かったということになるんだろう。
 しかし、どこで骨折したのだろうか。……オレ?

 手鏡を出して顔を調べる。赤くなった個所はなく、骨折原因の形
跡はない。視界はあっても意識が混濁していたので箱のどの部分が
当ったのか詳しく知らなかったが、角でないことだけは確かなよう
だった。
 ホッとした。オレ自身のためにホッとした。

 テレビをつける。と、地震速報が流れている。彼に言葉をかけて
やる。
 「……事故だったんですなぁ」

 再び棚に箱を戻した。いつもの空間、いつもの場所に。ここ以外
ではしっくりこない。
 万年床に再び寝る。棚の床板からはみだした彼が、じっとオレを
眺めている。
 ま、しかし、どれだけ見つめられようと恐れるには値しない。彼
の飛び降り自殺では、俺を殺せないことが実証されたからだ。
 瞬間的に、「意識」を殺すことはできたようだが。

「じゃ、おやすみ……」
 笑って彼に言ってやった。

 名もなき日常の小さな哲学は、こうして終わりを告げたのである。






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