第18回1000字小説バトル
Entry16
「お前、今度俺に付合え」 タバコを爪先で消しながら奴が云った。 客先からの帰り路、とうとう奴は云った。 (何で僕なんだ......僕は関わりたくない......) あの日、僕は最終電車で運良くボックス席に座る事が出来た。 5つある駅をゆっくり小説でも読みながら帰れる小さな喜びをこの 疲れた身体と頭に麻酔の様に注射していく...... その時突然「ギヤー!」けたたましい女性の叫び声!! すぐ斜前のボックス席から聞こえてきた! 廻りの人々が立ち上が り目を大きく見開いたまま、そして息を止められた様な表情で少し づつ後づさりしながら、手はわなわなと宙を泳ぐ...... 「どうした!......何があったんだ!」 前方の座席から一人の男性がそこへ行こうと立ち上がった。 その瞬間、「ギャー!!!」二度めの叫び声、 僕はそこで何が起こっているのか......何があったのか......両膝がガク ガク踊り、心臓が引付けを起こしそうになるのを無理矢理押さえ込 み、平然を装うのに精一杯だった。 立ち上がった男性の表情は、明らかに恐怖を表し、そこから動けな くなってしまった...... 「何をいまさら......あの頃のお前はこんな奴じゃなかったぜ!」 静かにそして、凍り付きそうな冷たい男の声......僕にも聞き覚えの ある...... (あっ!奴だ!......でもなぜ奴がここに居るんだ......) (なぜこの電車に......) 僕は信じられなかったが、震える膝に力をいれて立ち上がった。 背を向けた人々の間を、手でよけながら斜前の座席をのぞいた。 そこには、唇の右はじを少しつり上げ、無表情な笑みを浮かべた奴 が、前の座席の男に向かって冷たい視線を向けている。 そして、首をうなだれ両肩を落とした男がまるで、12ラウンドを 戦い抜いたボクサーの様に、肩で大きく息をしながら座っている。 (山田先輩!......) 男達の間の床には、おびただしいスポーツ新聞が異様な生物にでも 被された様に電車の揺れと反復するように動いている...... 次の瞬間、冷ややかな視線を感じ、僕は奴へと目を移す...... 奴が僕を見つめている! その冷たい瞳が「次はお前の番だ」と云 っている、僕はナイフを背中に突き立てられた様に、そこから動け なくなっていた......。 奴の酒に付合った者は、皆あんな風になるんだ。 次の日、山田先輩に聞いた事だが、奴は家に来て迄も平気でバーボ ンを水の様に飲んでいたらしい...... 「次はお前の番だ」奴の瞳に僕は怯えている。
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