インディーズバトルマガジン QBOOKS

第18回1000字小説バトル
Entry18

愚痴

作者 : 岡嶋一人
Website : http://www.win.ne.jp/~nmatsuda/
文字数 : 1000
 これはね、単なる愚痴だと思って聞いてくれよ。生きるの死ぬの
なんて重い話じゃないからさ。
 事の起こりはつい二日前のことなんだ。いや、本当にたいした話
じゃあないんだけどさ。
まあ、確かにそれまでにも聞いたことはあったさ。大昔にアメリカ
の方でね、色が黒いとか白いとかで差別があったって話はね。だけ
ど、それは昔の話で、それもここは日本だぜ。
 特にこの町じゃあ、むしろ外国から来たやつやハーフのほうが多
いくらいじゃないか。
 それがだよ、二日前のことさ。昼飯食ってから、暇だったんでね。
たまには、駅向こうでも行ってみようかなと思ってさ。ほら、新し
いスーパーが出来たらしいじゃないか。そいつをちょっと覗いてみ
ようかな、なんてね。
 一丁目裏の公園前の通りをぶらぶら歩いていたわけよ。公園とタ
バコ屋の間に細い路地があるじゃないか。あそこを横切ろうとした
ら、奥の方の家からばあさんが出てきたんだ。
 俺が見るともなしにそっちを見たら、ちょうど、ばあさんと目が
あったんだ。そうしたら、ばあさん、どうしたと思う?
 なんか妙な声を上げたと思ったら、今度はぶつぶつ言っちゃって
さ。慌てて家の中に引っ込んじまったんだ。
 まったく失礼なやつだと思ったね。だってそうだろう。俺を見る
なりだぜ。随分じゃないか。俺は幽霊でも、化け物でもないんだか
ら。いたって普通、普通ですよ。そりゃあね、確かに俺は色黒です
よ。隣の、マリアさんみたいに色白じゃあありませんよ。
 だからって、あのばあさんに危害を加えたり、脅かしたりなんて
しやしない。大体、あんなばあさんからかったって、何にも面白く
ないしね。あんたから見て、俺って悪そうに見える? 怖そうに見
える? でしょう。
 まあ、後から小太郎に聞いたら、あそこのばあさんは、昔っから
信心深いって有名だったらしいんだけどね。俺はそんなこと知らな
かったから、あの日はずっと気分が悪かったよ。
 でもね、未だにそんな風に見られてたのかと思ったらなんだか悲
しくなっちゃって。
 もうすぐ、二十一世紀だっていうのに。
 本当にいかんですよ。色の黒い・白いで決め付けるなんてのは。
差別ですよ、差別。そう思うでしょ。
 まあね、皆が皆そんなんじゃないとは思うけどさ。現に、俺が世
話になっている中村家の人達は皆、大事にしてくれてるしね。

 しかし、一体誰なんだろうねえ。最初に言い出したやつは。

”黒猫が横切ると不吉な前兆だ”なんて。






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