第18回1000字小説バトル
Entry20
スタートの合図でみんないっせいに飛び出した。ボクは必死に泳 ぎ続ける。 膨大な数の競争相手。だけどボクは負けやしない。とにかく力の 続く限りこの広い海を泳ぐだけだ。 ボクの横を全速力ですり抜けていく奴がいた。元気そうだけど、 最初からそんなに飛ばして大丈夫かな? スタミナ配分をよく考え ないととても最後まで持たないよ。なんせ過酷なレースなんだから。 案の定、さっきの奴はバテたようだ。急にスピードが落ちて、ほ とんど動きを止めたようになり、どんどん他の奴らに抜かされてい く。ボクもたった今、抜かしてやった。 後ろを振り返る余裕なんかない。これからは体力勝負だ。 ポクは得意の泳法で瞬く間に何人かを抜いてやった。みんなの舌 打ちが聞こえそうだけれど、油断は出来ない。やっと先頭集団に迫 れたのだ。あと少し。もうちょっとであの中に食い込むことが出来 る。 集団の中の一人がボクの方を振り返り、さもイヤそうな顔をした。 フン。今にボクが先頭になってやるぞ。 ボクは意識してピッチを上げた。一番手の奴にようやく接近する。 もうどれくらいの距離を泳いだだろうか。かなり脱落した奴もい るはずだ。だけど、ゴールは刻一刻と近づいている。 ボクは頭ひとつ分、奴を抜いた。相手も必死の形相を見せてスピ ードを上げてくる。どうやらコイツとの一騎打ちになりそうだ。 激しいデッドヒート。抜いたり抜かれたり、ボクたちは死闘を繰 り広げる。 だけど、だんだん体力の限界を感じ始める。ボクも奴もかなり疲 れている。でも、やっとドーム状のゴールが見えてきた。それはキ ラキラと光ってボクを迎えてくれる。 よし、やっと辿り着いたぞ。ボクはなんとかドームの中に入ろう とするけれど、なかなかすんなりとは入り込めない。 そうこうしているうちに奴もやって来た。マズイ。先を越されて なるものか。もう体はボロボロだったけれど、ボクは最後の力を振 り絞ってドームの壁に体当たりをした。 その時、やっとボクの頭が壁を突き抜けた。やった! ボクの勝 利だ。もう誰も入って来られないぞ。 卵子の核を目指して最後にボクはひと泳ぎする。これで融合出来 るのだ。待ちに待った瞬間が訪れた。 「ねえ、あなた。私、今度こそ妊娠するような気がする」 「ホントか? 早く会いたいな。俺たちの赤ちゃんに」 「やぁだ。気が早すぎるわよ」 そう言って新婚の妻は夫の胸に顔を寄せ、ベッドの中でそっと微 笑んだ。
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