第18回1000字小説バトル
Entry27
座席の確保を目的として早朝の電車を利用する為、都心のオフィ スでは、出社は遠い順となる。 いつものように、掃除のおじいさんよりもお茶汲みのおばあさん よりも早く到着した会社で、出がらしの煎茶をマイ湯呑に注いだ桃 太郎は、自席に着き、昨日の部長の言葉を思い出していた。 「今回、社員数の25%カットを実行することとなった。課長諸君 は、担当部署の削減案を作成し、明後日までに提出するように……」 「おはよっす。桃さんいつも早いっすね。」猿が出社してきた。課 長の私を捕まえて「桃さん」呼ばわりで憚らない。「ときに桃さん、 聞きましたか、リストラの噂。盛んに飛び交ってますよ。何か知っ てらしたら、内々に教えといて下さいよ。いきなり、バサッと切ら れたんじゃ、堪りませんから」予防線を張ってるつもりらしい。ま ったく猿は要領がいい。こんな風に取り入っていながら、ちゃんと 再就職の当たりは付けているらしい。もともと器用な猿のことだし、 「猿蟹合戦」「御猿の駕籠屋」「猿の惑星」と就職口はいくらでも ある。こいつなら気軽に馘首に出来そうだ。しかし、こいつが抜け ると現業に支障を来たすし……。 「お早うございます」犬出社。すぐ着席し、鞄から書類の束を取り 出す。電車の中でも卓袱台の上でも仕事を忘れないやつだ。勤勉さ は買うが、どこか要領が悪い。猿と同様、再就職に苦労はしないだ ろうが、馘首にしたら、私を逆恨みする危険が大だ。 「オッハー」派手なアクション付きの場違いなあいさつで雉が登場。 「カチョー、今日は火曜日なんで、お花を買ってきましたー。可憐 なフロックス。花言葉は『合意の関係』どぅえーす。お金は後でい いですからね」化粧した男の意味ありげなウインクに、すぐさま馘 首にしてやりたい衝動に駆られる。こいつさえ消えてくれたら、ど んなに住みやすい世界になるか。 しかし、出来損ないの雉がいるから、犬と猿とが正面衝突しない で済んでいる面も否定できない。雉が欠けると課内は毎日戦々恐々 となるに違いない。一触即発、血で血を洗う下克上となりそうだ。 「課長。書類は出来たかね」突然の声に驚く私に部長は「何だ、ま だ白紙のままか。だいたい君は優柔不断でいかん。部下の首も切れ んような課長はいらん。貴様が馘首だ。後任は犬君にやって貰おう」 と捲くし立て、踵を返した。 課員の同情の視線を浴び、驚愕と混乱に身を任せつつ、私は気づ いた。「鬼は部長になっていたのか」
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