第18回1000字小説バトル
Entry28
「口喧嘩は先に仕掛けたほうが負ける」 と、得意満面で言った男がある。都築という。その発見を告げら れた他方の男は能代といってガッチリとした男である。能代のほう が頭一つ分は背が高い。そのせいか年少者が年長者を説いているよ うで少し奇妙な感じもする。というよりも、能代のような大男が、 都築が語るような論理的なことに興味を持つということ自体すでに 疑わしいものがある。 「だって、仕掛けられたほうは相手の言うことに耳を貸さなければ いいんだから」 「それじゃ口喧嘩にならないじゃないか」 「でも実際の口喧嘩なんてそんなものだよ」 「そんなことはない」 「そんなことないことはない。否定されてるうちに先手は言葉に詰 まって、それで負け」 「だからそんなのは駄目だって」 「……」 興味は確かにあるようなのだが、能代は根本的に理解力に欠けて いるようである。直接的な言い方をすれば、馬鹿。より野性に近い 傲慢さを持つ人間。頭でっかち文化的人間都築の天敵といえる。 (それでも二人は仲間であるが) 「なんだよ。もう終わりかよ」 飽くなき知識欲、というよりも勝利の快感を貪る魔獣。 都築はそれでも、くじけることなくなんとか切り返した。今度は 発見の喜びからではなく、あくまで能代に勝つために。なぜなら、 最初の理論はここまでのやりとりですでに実証されているから。 (もっとも、その理論を都築自身が忘れてしまっているようだが) 「口喧嘩は馬鹿が勝つ」 「それは違うだろ」 「でも、頭が弱い奴は力に頼るしかないだろう。自分の立場が弱く なるとすぐ腕力をちらつかせて、結局、最初っから『腕力』とタッ グを組んでるようなもんじゃないか。それじゃあ、口先だけが頼り の奴は勝てっこない」 「だからそれじゃ口喧嘩じゃないじゃないか」 「でも実際のところ、本当に腕力を奮わなければそれは口喧嘩と言 ってると思うけど」 「それはおまえの被害妄想だ」 「そんなことはない」 わずかに乗ってしまったばっかりに、二人の立場が逆転した、か に思えた。 「そんなことないことはないだろうがよ。間違ってるものは間違っ てる」 「間違ってない」 「間違ってる!」 その言葉は威圧的であった。腕力の影がちらつく。 「……これじゃあ脅迫じゃないか」 「おまえの話じゃ、脅迫だって口喧嘩じゃないか」 うまいことを言う、と思った。 普通の喧嘩もできないような弱気で力のない奴は、どんな喧嘩も できはしない、と思った。
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