第18回1000字小説バトル
Entry29
あさっては私の住む市の市長選挙がある。散歩で公園の前を通っ た時、大きなベニヤ板にたくさんの顔写真が貼ってあった。じっと 眺めてみたが、ろくな奴はいないと思った。これではよくない、と 非常に強く感じた。それで私は家にあった「肉感派AV女優水島葉 子のヌードポスター」をここに貼りつけたのである。次の日にまた そこを通ったら、思った通りはがされていた。でも、このポスター はある程度人の目に触れているはずだから、市長選の際、「水島葉 子」に投票する人が何人かいるはずである(と私は思うのだが)。 前衛芸術家の私は、しばしば筆をとって抽象画を描く。そしてピ カソよりもすごいやつをしばしば描いている(と私は思うのだが)。 さて、ある時私は茶色い絵の具が手にべっとりついているのを見 ながら、あれこれと思案していた。すると、素晴らしい考えを思い ついたのだ。私は手を洗わずに、急いで近くのスーパーマーケット へと向かった。そこに着くと、野菜や果物を陳列しているコーナー へ行き、手でキャベツの裏やトマトの腹やりんごの尻などをなでる のであった。かくして私は「汚れた青果コーナー」という名の、今 まで作成したことのない実体的前衛芸術を完成したのであった。 深夜、私はふと外を散歩したくなることがある。それで静まり返 った住宅街を一人でゆっくりと歩く。 その日もいつものように深夜散歩をしていたのだが、突然尿意を 感じた。それは団地の中で、幾棟もの建物の影が夜に混じって深い 陰影を落としているのであった。私は目の前にあった階段をのぼり、 3階で立ち止まった。左右にドアがあり、それぞれ「佐藤」「吉川」 と表札が出されていた。私は断然「佐藤」の方が好きなのでそちら のドアの前に立った。そして、玄関のドアの新聞入れを手で開けて、 そこに私自身を解放するのであった。水の速い流れがキラキラと光 って見えた。 私は用を足し終わると、今までにない安堵感を抱きつつ、家路に 向かった。そして私は考えた。今したことは、303号室の佐藤さ んのお宅の防災にひどく役立つことなのだ。例えば火事が起きた時 は、玄関ポストから消火器を噴射せよ、ということではなかったの か。ということは、私は佐藤さんの家の火事を未然に防いだことに なり、このことはいたずらどころか慈善行為であり、消防庁から表 彰を受けて当然である。 私は、火事で死ぬよりは洪水で死ぬほうがずっとましである。
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