第18回1000字小説バトル
Entry3
「父さん今夜も帰って来ないね。」 長男が力なく言った。 「兄さんは何で父さんに、そんなにこだわってるの?」 長女が面倒臭そうに言う。自分の爪を磨く事に集中しながら。 「おまえ達は、気にならないのか?」 長男が、青ざめてキっと妹弟達を睨んで言う。 「男が女を求めるのも、古いものより新しいものに惹かれるのも、自 然な事なんじゃないの?」 次男がそっぽを向いて言った。 月の出ている明るい秋の夜。少し冷たい外気に当たりながら、4人 兄妹は近所の空き地に落ち着かなげに集まっていた。 「当の母さんが気にしていないんだから、」 次女は少しでも暖を取ろうと、長女の側に寄ってその肩にもたれかか りながら、 「放っとけばいいじゃん。」 興味なさ気にけだるく言った。 「おまえ達は父さんや母さんを愛していないのか?」 長男が肩を震わせて、うなるように言った。 「・・心配じゃないのか?」 悲しげにうなだれた長男の頬に、近くに白い花を咲かせている木から 夜露が落ちた。 それは、まるで長男の涙のように彼の頬を滑り落ちた。 「何で兄さんは、そんなに執着してるの?」 長女の白猫は、呆れたように言い捨てると、不意に立ち上がり近くの 草むらの中へ飛び込んだ。 「まるで人間みたいね。」 次女の三毛猫も言うと、姉の後を追って走り去って行った。 「人間なんかに飼われるからだよ。」 次男のぶちねこは大きなあくびをして、べったりと座り込んでいた四 肢を起こすと、やはりゆっくりと去って行った。 空き地に一人残された長男の黒猫は、ふと耳が痒くなって後ろ足で 勢い良く頭を掻いた。 首についている小さな鈴が、りんりんと鳴った。 「何が僕らと違うんだろう。」 黒猫は呟いた。 暖かい大きな手の平を思い出して、黒猫は帰りの道を急ぐ事に決め た。
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