インディーズバトルマガジン QBOOKS

第18回1000字小説バトル
Entry30

バス ドライバー

作者 : 有馬次郎
Website :
文字数 : 998
「ステップにお立ちになると危険です。整理券をお取り下さい..」

大抵の事は許してしまうのが、オレの特徴といえば、そうだ。
45歳を越えてからというもの、ブスも金持ちも政治家も皆が好き
な民主主義までも、全て許して生きている。
上司の言う満面の笑みはつくれそうもないが、それでも金歯をキラ
リと光らせるくらいの愛想笑いは浮かべているつもりだ。

「次は○○四丁目。傘などのお忘れ物のない様お願いいたします」

運行時間通りでない場合は、黄色信号で突入することも、しばしば
経験済みだ。最近は黄から赤でも強行突破出来る様になった。
当社の中では恐らくその実績ナンバー1は、このオレだ。
下手すりゃ事故ってしまう。なかなか1番にはなれない。
それだけが自慢なんだ。

けだるい午後の小雨模様が、ワイパー越しに大降りに変わっている。
(ああ、油で磨きあげた車内デッキもべしょべしよで滑りそうだ)
タバコの脂の混じったグリースの匂いが鼻をつく。

いつもの並木通りも、雨にけむり街全体が静かに呻いているかに思
える。

対抗車線側の歩道を顔グロの女子高生が、グログロになって傘もさ
さずに歩いている。体の線や表情から既に成熟しきっている。
あのぺースでいくと30歳で人生終わりだな。

まァ許そうか...。

こちら側の歩道を銀行マン風が、頭にハンカチをのっけて走ってい
る。
赤塚不二夫のマンガに出てくる足をクルクル回転させた走りだ。
ハゲだが、年収1500万以上だろうからなァ。

まァ、許そうか。

おおッ!いつも乗ってくる小学二年生の坊主が、ずぶ濡れで次のバ
ス停まで駆けている。距離は相当あるぞ坊主。

これは許せないぞ。

「急ブレーキにお気をつけ下さい」 キキッ! ガッシャン!
「おい、乗んな」 
「おじさん有難う」
頭がもずくみたいに濡れて光っている。 風邪引くなよ。

「何でバス停でもないのに止んのよー」オバタリアンが叫ぶ。
(口紅ぐらいつけろ)
「何かあったのか」とタコおやじ。(口臭が届きそうだ)
ブツブツ言うな。運行時間に影響ねェぞとキレそうになったが「ま
ァ許そうか」とアナウンスして、静かにバスを再始動させた。

上司や会社が恐くてバスが運転できますか、あんた。
(こんなアホなおじさんだが許せよ坊主)
運転席の後ろの坊主だけがキラキラ微笑んでいる。
よしよし気分は上々と......。

しまった! 通過した停留所の3人が、傘を振り回して何か喚いて
いる。 まるで茹でダコの形相だ。

「まあ許そうか」 坊主が呟いた。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。