第18回1000字小説バトル
Entry8
一発目、引き金を引く。重い。拳を握り込む様に右手の中心に筋 肉を凝縮させる。炎に翻訳された怒りが口から噴き出す。その残像 が眼球にこびりついている間に、聴覚が侵される。乾いた音。手の 中で死を目前にした魚が最後の力を振り絞りそこから抜け出そうと もがく。その黒光りする甲虫を抑え付けると、はじき出される金の 筒。結婚式の最中、牧師を目の前に立ち、両家の身内や友人を観客 に、ふと自分の目の前の女を求めていないのに納得し指輪を投げ捨 てる。中に浮いたその指輪はきらりきらりと確実に光りを放ちなが ら落ちていく。やがて指輪は吐き出された金の筒に姿を変え地面へ たどり着く。そこで巻き起こる小さな歓声をかき消した。 二発目。地の底から吹き上げる地獄の炎は私の身体を貫き私の怒 りを経由して、私の右手の黒い使いから流れ出す。正気を取り戻し ていない私の耳は一発目よりも無関心に二度目の仕打ちを受けた。 周りにうっすらと広がる煙りが私の視界を歪めたが、そこに共にあ るほのかな香りは不快な物ではなかった。胸を真っ赤に染め、彼の 心情を目一杯に視覚に訴えかけようと表現した姿はゆっくりと両方 足のかかとを軸にゆっくりと弧を描いて倒れていく。まるで絶対開 けてはならないと両親に言われていたが好奇心が罪悪感を打ち倒し て、その子供がどきどきしながら開けるドアの様だ。一発目、驚き と疑いがこの男を襲い、運命への抵抗に諦めを感じながらこの男が 受け入れざるおえなかった二発目。 そして二つの銃声の間の二倍半の時が経過した今、倒れた男がそ の血を噴き出した炎の源の吸われている今、私が彼の目の前で皆既 日食を造る今、私の黒い使者はその体の鈍い光りを更に色焦せさせ る様な鋭い光りを放つ。三発目。無意味なまでに地を染めるこの男 の血が動けなくなった身体の代り私の足元ににしがみつこうとする。 哀れな右目と左目、それらの中心からまぶた一つ分上に在る充血し た三番の眼。この男が逝った先を想像させる彼の枕にしている物。 私は残りの弾丸をその肉の塊に次々に埋めてやった。絶対的に必 然ではないがライオンが喰いもしない兎を殺すのも肉食獣の営みの 一環だから。私は今は使命を終えた、体温の下がり始めている、鈍 い輝きに意地の悪さを称える鉄の伝達屋を形式的に投げられる花束 の様に死者のたもとにほってやる。来た道を確実に同じペースで歩 いていく、来た時との違いは向きだけだ。
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