第19回1000字小説バトル
Entry11
真新しい畳の匂い、いまだサッシになっていない古めかしい窓。 私は1人でその真新しい畳の香りを楽しみながら一人部屋で横にな っていた。 傍らには、友達の野良猫ムクがご機嫌に喉を鳴らしてる。 やっと終わった、家庭という共同体をぶち壊す作業が終わった。 今までの両親、そして親としての父親の姿、母の姿、どれをとって も親らしからぬ姿に違いない。 父がよそに愛人をつくり半狂乱になり追いかけ回す母の姿、そして 母の自殺未遂、幼い私には強烈なトラウマとして残った。 いまだにその傷はヨードチンキをつけようとも、一流の医師にかか り処方された一流であるはずの薬を投与しようとも癒えようとしな い。 いまだ杖が必要な重症をおってしまったようだ。 私がまだ幼かった頃、父に手を引かれ知らないアパートに連れてこ られた。 その外観はきれいだが今にもゴーストが壁から這いつくばってでて きそうな感じだった。 ドアを開けて中に入れられると一人の若い女性が出てきた。 新しいお母さんになる人。子供心に直感した。 その女性はなぜかアパートの外観とまるで同じだった。 住人の魂が建物の外観に反映されているようだ。 まるで雪のように色が白い。父はこうゆう人が好きなんだ。 こんな考えにとらわれる自分はおかしいのではないかと思い必死に 意識の外に出そうとした。 父とこんなGOASTみたいな人が愛し合う姿なんて想像したりする子 はいやらしく汚らわしい子なんだ。 そんな自分をなだめるだけでのことで多量な時間が必要だったよう だ。 どの位時間がたったか。夕食の時間になった。 その女の人は私の茶碗を手にとり「いっぱい食べてね」と精一杯の 笑顔をふりまきご飯をよそろうとした。父は、母と一緒の時は決し て見せることがないいやらしそうな笑顔を新しく妻となろうとして いる彼女に返している。 彼女には大きすぎると感じる杓文字で不器用にご飯をよそる手に私 はぎょっとした。 まっしろ……突然自分の頭まで真っ白になった感覚に冒されて吐き 気がしてきた。 このまま嘔吐して白いご飯にぶちまけてやりたい。そんな衝動に駆 られた。 早くこんなくだらない儀式から遠ざかりたい。 それからぷっつり記憶が途切れた。 そういえば父は肌の色が若干黒い母のことをいつも嘲るように馬鹿 にしていた。 父が母を色が黒いことに嘲笑していた理由がわかった気がした。 私は、父と若い愛人とのおままごとに付き合っていることなんかご めんだった。 そして今、とても心から好きとは言えない母とこのアパートに引っ 越してきた。 きれいな外観とは言えないアパート。 でも、私は、あの白いゴーストから睨まれる事がないこのアパート の方が好きだ。 距離が離れすぎてしまった母といつの間にかいついてしまった野良 猫ムクとの生活。 ムクが私の心には一番の処方箋のようだ。何にも喋らないけど、い つもご機嫌に喉を鳴らすムク。幼い私の心の家族になってくれたム ク。 「いつでも僕の懐に逃げてきていいんだよ」まるでそう言ってる。
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