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第19回1000字小説バトル
Entry12

家路

作者 : さとう啓介
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文字数 : 998
窓越しに流れ始める風景。
正太は横目に見ながら鞄からラップの包みを取出した。
にぎりめし、たくわん二切れ。正太はいっきに口へほおばる....
正太は今日、家を出た。中学一年、少し大人、でもまだ子供。

隣のボックス席、正太を見つめる瞳。顔中皺だらけ、色黒の老人。
「おい坊主、どこ行くんじゃ」

ちょっと見てまたにぎりめしに食らい付く

「そんな急いで食べんでも取りゃせんよ、茶、飲むか」
老人が水筒から蓋のコップに注ぎ正太へ手を延ばす。
食べる動きが止る、手を延ばしながら「ありがとう」

老人の細くなる瞳「わしゃ平助言うんや、坊主は?」
正太は手に付いた米粒を口で摘みながら「オレ正太」
「正太か、元気じゃの」
正太はコップを老人に戻しながら「爺ちゃんはどこ行くん」
「平助言うたやろ」老人の顔に皺が広がり笑顔が現れる。

「わしゃ汽車に乗るのが好きでの」正太は不思議顔。
「それで、正太はどこ行くんじゃ」平助の問い。
答えたくなかった(まだ決めとらん)窓の風景に目を戻した。
「家出したか、気が短いんじゃの」
(何でわかるんや....?)
遠くのお寺、大銀杏、黄色く大きく見えている....間ちゃん家。

「わしも一度あったかの、暗くなると恐くなっての、
気が付いたら家の前じゃ、何やろな」
「爺....」
「平ちゃんでええよ」手を横に摩る様に振った。
「平ちゃん、なんで家出したん?」少し照れておでこを掻く正太。
「理由か?小っちゃい事だったんじゃろ、もう忘れとる、ハハハ」

ぽつぽつと平助は正太の所にきて「ここ、座ってもいいか?」
「う、うん」斜前の席に腰掛けた。
「正太は幾つじゃ」「....13」「友達おるか」「....間ちゃん」

列車がトンネルに入る、平助の声が止る。
正太は目の前が一瞬暗くなり何も見えない。窓ガラスが震える、
車輪がレールを削る....まだ暗い、うるさい音。
平助の微かな姿が黒く見える。

「正太、男は逃げちゃならんよ」
平助のキリッとした声が聴こえた。
次の瞬間トンネルから抜けた。眩しい光がまた正太の目を襲う....
耳から音が逃げて行く....正太はゆっくり目を開けた。
と、そこに居たはずの平助は居なかった。

「平ちゃん....平助爺ちゃん....」列車の中には正太だけ。
正太は平助の座っていた座席に手を延ばす....温もりは無い。
レールの継目の音....耳に響く....。
平助の言葉....耳に響く....。

次の駅、下りホーム。正太は家路の列車を待っている。
何処迄も続く線路を見つめ、唇を噛み締めて....。






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