インディーズバトルマガジン QBOOKS

第19回1000字小説バトル
Entry14

森林に咲く真実の華

作者 : 北原伸哉
Website : http://www.m-n-j.com/medianetjapan/henjin/index.html
文字数 : 700字前後
 今日も彼は、石階段に腰掛けて空をじっと見上げていた。
 傍らで、傷だらけの自転車が風に仰がれ休んでいる。袖のよれ
た蒼い上着と、すり切れた裾のジーンズのズボンと。目深に被っ
た萌黄色の帽子から、思慮深そうな顔が覗いていた。
 旅行者だろうか。彼がここで空を見上げるようになってから、
二週間ばかりが過ぎている。
 彼の気持ちも分からないではなかった。この神社の森林は、日
々の生活で疲れた者には最高の癒しを与えてくれる。寒気を帯び
た木々の呼吸、僅かに零れる木漏れ日の陽だまり。自然の力が、
薄汚れた体に入ってくるような錯覚を感じさえするのだ。
 声をかけようかと迷う日々が続いていたが、ようやく、きょう、
声をかける勇気が生まれた。
「いい天気ですねぇ。」
 手を後ろに組みながら、さも自然を装って彼に近づく。驚くで
もなく、ゆっくりと、彼はその顔を向けた。
「ここは我々の町内でも自慢の土地なんですよ。こう、ここにいる
と、自然が力を分け与えてくれるようだ。そう……思いませんか?」
 世間話を繕い、ゆっくりと彼に近づく。
「………逆ですよ。」
 侵入を拒むように、彼は不思議な言葉を綴った。ただ、その疲
れた顔には、優しい微笑が浮かんでいた。
「人間に力を与えたら、自然は殺されてしまいます。だから僕は、
………力を抜き取ってもらってるんです。人間として、思いあが
らないように、こうやって彼らに………………」






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