第19回1000字小説バトル
Entry14
今日も彼は、石階段に腰掛けて空をじっと見上げていた。 傍らで、傷だらけの自転車が風に仰がれ休んでいる。袖のよれ た蒼い上着と、すり切れた裾のジーンズのズボンと。目深に被っ た萌黄色の帽子から、思慮深そうな顔が覗いていた。 旅行者だろうか。彼がここで空を見上げるようになってから、 二週間ばかりが過ぎている。 彼の気持ちも分からないではなかった。この神社の森林は、日 々の生活で疲れた者には最高の癒しを与えてくれる。寒気を帯び た木々の呼吸、僅かに零れる木漏れ日の陽だまり。自然の力が、 薄汚れた体に入ってくるような錯覚を感じさえするのだ。 声をかけようかと迷う日々が続いていたが、ようやく、きょう、 声をかける勇気が生まれた。 「いい天気ですねぇ。」 手を後ろに組みながら、さも自然を装って彼に近づく。驚くで もなく、ゆっくりと、彼はその顔を向けた。 「ここは我々の町内でも自慢の土地なんですよ。こう、ここにいる と、自然が力を分け与えてくれるようだ。そう……思いませんか?」 世間話を繕い、ゆっくりと彼に近づく。 「………逆ですよ。」 侵入を拒むように、彼は不思議な言葉を綴った。ただ、その疲 れた顔には、優しい微笑が浮かんでいた。 「人間に力を与えたら、自然は殺されてしまいます。だから僕は、 ………力を抜き取ってもらってるんです。人間として、思いあが らないように、こうやって彼らに………………」
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