第19回1000字小説バトル
Entry15
いつもなら9時からの夜勤を、今日は少し早め、8時過ぎくらい にタイムカードを押した。 この時期はにぎやかで基本的に嫌いではないけれど、一緒に過ご す人がいたのは、前々回が最後だった。 気まぐれに、いつもよりかなり早めに家を出てみたら、道ゆく人 々が皆男女の2人連れで、この日のためにバイトしてましたってな 連中に混じってバイトに向かう自分がなんだか町中のカップルの人 柱にでもなっているような気がしてきて、散策を辞めてさっさとバ イト先のコンビニに入った。 入れ替わりにあがったバイト君は、綺麗に洗った車に乗ってどこ かに行ってしまった。早めにあがったときの嬉しそうな顔を思うと、 本当に町中のしあわせを自分独りで支えているような気になってく る。 「いらっしゃいませ〜」 自動ドアの開く音で反射的に声が出る。作業しながらちらりと見 ると、入ってきたのは、またしてもカップルのようだった。 「何もわざわざここで買わなくたっていいだろ…」男が言う。 「だって…」と、女の声。 「あっちに着けばどの道あるんだから…」 「安全性とか、恐いのよ」と、云々。 2人の話し声は、他に人がいないのと有線がゆっくりしたクリス マスソングを流していたので、嫌でも耳には届いてしまう。右から 左に、なるべく聞き流すのが店員の勤め。 やがて、2人は仲良く並んで商品を手にしてレジに来た。手に持 っていたのは、箱入りのスキン。 「ありがとうございまーす」 こういう場合は、客の顔を見ないのが店員の勤め。手早く紙袋で 包み、ビニール袋に入れる。 「あ・・・」 女のほうが恐らくこちらをちらりとみて、軽く絶句した。こうい うときも、客の顔を見ないのが店員の勤め。 「1,134円になります」 「2050円のお預かりです」 「916円のお返しになります。ありがとうございました」 滞りなく業務を終え、絶句したままの女にお釣を渡し、連れ立っ て店を出る2人にもう一度、ありがとう御座いました。と声を掛け た。 2年前の今日、俺のとなりにいた彼女に向かって。 レジの横にあるガラス戸を開け、ほかほかと心まで暖まりそうな あんまんを取り出すと、指先がじんわりと湯気に包まれた。 そのまま店の外に出て、2人が乗った車が向かった方向に向かっ て、思い切りぶん投げた。 あんまんはイヴの明るい闇に吸い込まれて、やがてべちゃり、と 良い感じの音が聞こえた。 夜が明けたら、凍ったあんまんの処理をしよう。
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