第19回1000字小説バトル
Entry2
時々、意識が途切れているようだ。自分では意識しないが、天井 からぶら下がっている同居人の位置が違っている。かれこれ三年間、 彼は天井からぶら下がり続けている。 その前はどうだったかは思い出せない。 彼はいつも天井からつららのようにぶら下がり、そこから電話を し、テレビを見、よく読書をしている。時として、突然に、いる場 所が変わったり、ぶら下がる人数が増えたりすることもある。そん なことがあるから、自分の意識に問題があると思うのだ。そういえ ば、昼の記憶がほとんどない。いつも夜だ。乖離性人格障害かもし れない。それについては本で知った。昼間、別の人格が現れている のだろうか。 天井からぶら下がる同居人というのは確かに奇妙だが、慣れれば それほど困る物でもない。一緒にテレビを見ているときなど、話し かけることもあるが、答えてくれない。「北の国から」を見る度に、 「あのつららはまるで君みたいだねえ」 と茶化すのだけれど、知らんぷりをされる。それが少し寂しく感 じるときもある。 前にも言ったけれど、三年間彼といっしょに暮らしている。彼と いっしょにテレビを見、音楽を聴き、本を読んで過ごしているのは、 とても当たり前のことになっていて、ずっと続くように思っていた。 ところが、うまくことは運ばない。意識障害が激しくなりはじめ た。ふとした瞬間に、朦朧とする。ところどころ欠落したフィルム を見ているように、天井からぶら下がる彼の動きがぎこちない。日 に日に気持ち悪い時間が増え、とうとう耐えられなくなって悲鳴を 上げた。「助けてくれ、なんだか、ヘンだ」 必死の呼びかけが、奇跡でも起こしたのか、普段、いくら話しか けても返事一つ返さない彼が初めて反応した。 いぶかしげな眼差しで、まじまじとこっちを眺めている。ああ、つ いに、コミュニケーションを取ることができた。気持ち悪さの中に も、一抹の喜びが滲んだ。ずっと、この同居人と、話したかったの かもしれない。そんな気分になった。そして、彼は言った。 「もう駄目だな、この電球」
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