インディーズバトルマガジン QBOOKS

第19回1000字小説バトル
Entry24

千文字

作者 : 刀
Website : http://www13.u-page.so-net.ne.jp/zf6/bingo/katana.htm
文字数 : 1000
 男が店内に足を踏み入れた瞬間、その場にいる誰もがその男の方
を振り返った。
 異様だった。男は自分の背丈ほどもありそうな細い木製の箱を担
ぎ、ぼろぼろになった黒いコートを羽織っていた。早朝とは言え季
節は真夏。そのような格好で街を出歩く人間はそうはいない。早朝
のファミリーレストランはしばし男に対する批評でざわつく事とな
った。
「いらっしゃいませ何名様でしょうか」
 どんな風体であれ客は客である。ウエイトレスは男に対し、微笑
みながら言った。男は指を一本だけ立てて、自分が一人である事を
示す。
「ご注文は何にいたしましょう? ただ今モーニングセットも取り
扱っておりますが」
傍らに木箱を置き席についた男に対し、ウエイトレスが水とメニュ
ーを差し出す。男はウエイトレスの問いには答えようとせず、
「人を待ってる」
とだけ呟き、不機嫌そうに俯いた。ウエイトレスも男のその様子に、
会釈してその場を去る。
 五分後。
 新しい客が店内に足を踏み入れた。小奇麗なスーツを着こなし、
ブランドものらしいサングラスをかけたその風体は、青年実業家を
思わせた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」
と問うウエイトレスに、その若い男はにこにこと懐から銃を取り出
し、何も言わないまま彼女の胸を撃ち抜いた。店内に悲鳴が響く。
「騒ぐな!」
一瞬にして殺人犯と化した若い男はウエイトレスを撃ち殺した後、
天井に向けて数発発砲すると、外見にそぐわぬ甲高い声で叫んだ。
その声に店内が静まる。
 殺人犯の目的は不明だった。時折意味不明の事を口にし、食事を
持ってこさせたり酒を持ってこさせたりしていた。店内の誰もが自
分の人生の悲運を呪った。
 だが男は違っていた。男は傍らに置いていた木箱に手をかけてゆ
っくりと立ち上がるとと殺人犯を睨みつけた。殺人犯はそれに気付
くなり
「勝手に立つンじゃねェ!」
と、男に向けて発砲した。
 弾丸は二発。
 男は木箱をまるで箪笥のように自分に向かって開放すると、その
影に隠れた。弾丸が金属音と共に木箱に弾かれる。木箱はどうやら
金属のようなもので裏から補強されているようだった。
 男は木箱の中から一振りの刀を手にし、飛び出るように殺人犯に
向かって駆け出した。殺人犯はその不可解な状況に戸惑い、狙いを
定める事ができない。弾丸が一発放たれたが、それは男には当たら
ず、店内のソファーに着弾した。男が刀を抜く。
 あとは一瞬。
 男は殺人犯を一刀のもとに斬り捨てると、何事もなかったように
木箱のもとに戻り、刀をその中に納めた。店内の誰もが現状を理解
できないでいる中、男は一人無表情なまま木箱を担ぎ上げ、側にい
たウエイトレスに
「ひやかしだ。すまんね」
と言い残し去って行った。
 男の目的がなんであったのか、殺人犯の目的が何であったのか、
知るものは誰一人としていない。
 人々の記憶には、ただ男の持っていた刀の煌きだけが、深く残っ
ている。






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