第19回1000字小説バトル
Entry27
「お、お、お巡りさん!」 真っ青な顔をして、男が交番に駆け込んで来た。 「ん? どうしたのかね」 デスクワークの最中だった警官は、手を止めて顔を上げる。 「てぇへんだ、てえへんだよ!」 「まあ落ち着きたまえ、ほらそこにかけて」 「あ、こりゃどうも」 男は隣の椅子に座り、お茶を飲み干す。 「……それは俺のだったんだが。って、言ってるそばから弁当にま で手を出すな!」 警官は男が手を伸ばしかけたコンビニ弁当を引ったくる。 「朝食がまだだったもんで」 「用事があったんじゃないのか?」 「ああ、そうだ。大変なんですよ」 呼吸を整えた後、男はもう一度繰り返した。 「何が大変なんだ?」 「死体が川に浮かんでまして」 「なんだと!?」 弾かれたように警官は立ち上がった。 「さ、早く!」 二人は道路を突っ走る。 「それで、一体どんな状況なんだね?」 走りながら警官が尋ねる。 「いやあ、今日の朝に起きて、朝飯前のジョギングをしとったんで すけどね、なんとなくこう胸騒ぎというか、動悸というか、そんな んがしまして。別に心臓に持病もないし」 「手短に!」 「それで川をふと覗き込んだら、死体ですよ。ぷかぷか」 「なるほど。死体には手を付けちゃいないだろうね?」 「もちろん。だからこうしてお巡りさんを――この辺です!」 橋に通りかかった二人は、川を覗き込む。 「ほら、あそこに」 男は水面を指さした。 「どこだ、どの辺だ?」 だが、警官がいくら見ても、それらしき姿はない。 「どこに死体がある!」 「だからほら、あそこ」 男の指さす先には、白い腹を見せた魚が一匹。 「――魚なんぞで呼ぶな、たわけ!」 警官は大声で男を怒鳴りつけた。 「でも、死体……」 「生命は全て価値があるとでも言いたいのか? 貴様と生命観につ いて議論する気はない! 大体人間に限らないなら、地球上死体だ らけだ、その一つ一つを見つけて騒ぐのか!」 「はあ、まあそりゃそうですけど」 それでも男は釈然としない顔をしている。 「そんなに気になるなら貴様が煮るなり焼くなりなり好きにしろ!」 「えっ、大丈夫なんですか?」 「大丈夫に決まってるだろう! 今度こんな下らん事で呼んだら、 公務執行妨害で逮捕するぞ!」 憮然として、警官は歩み去った。 「あっ――行っちゃった」 男は頭を掻いてから、河原に降りると魚を拾い上げた。 「んじゃ、せっかくだし煮るかなぁ」 目がなく、背骨が曲がり、対称性の著しく崩れた魚の死体を。
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