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第19回1000字小説バトル
Entry33

聖夜の家

作者 : 一之江
Website : http://www05.u-page.so-net.ne.jp/qd5/s-kumiko/
文字数 : 1000
 クリスマスイブの夜中過ぎ、中須は真っ暗なわが家へ帰って来た。
試しに「ただいま」と言ってみる。返事はない。寝室を覗く。暗が
りの中、妻の布団がこんもり盛り上がっているのが確認できた。小
さくため息をつく。台所へ戻って、手に下げていた紙箱をテーブル
に置いた。
 帰り道、大サービスですよー、と若い女の子たちが甲高い声を張
り上げていたのだ。ワゴンにはケーキの箱が積まれていた。中須は
思わず足を止めた。家にはいい歳をした妻が一人いるだけだった。
今さらケーキなんて。だけどクリスマス、残業ばかり。いやそれよ
りも、不況でボーナス大幅カット。せめてケーキぐらい。中須は大
サービスのケーキ(中)を一個買った。
 テーブルには、鳥の唐揚を載せた皿にラップがかけられていた。
中須は暫くその冷えきった料理を見つめてから、先に風呂に入ろう
と決めた。暗いままの寝室へ入って服を脱ぎ捨て、下着とパジャマ
を探す。部屋を出るときに、妻の寝顔を覗き込んだ。
「ケーキ買ってきたよ」と耳元で言ってみる。と、「売れ残りでし
ょ」と小さな声。中須は仕方なく苦笑した。「うん」
「こんな時間だから安いわよね」
 妻はそう言うと、用は済んだとばかりに寝返りを打った。中須は
「おやすみ」と呟いて、寝室を出た。
 ぬるい風呂に中須はゆっくり浸かった。ふうっと息をつき、両手
で何度も湯を顔にかけてから、体を湯舟にもたれさせた。
 まあ所詮、クリスマスなんか子供のものさ。でなければイベント
に飢えた若者か。分別のついた大人には関係ない、そうとも。
 まつげについた雫を、中須はごしごし拭った。
 風呂から出て下着姿のまま台所へ入る。と、中須は呆気にとられ
た。
「何だ、それは……」
 異様な妻の姿がそこにあった。
「それって、何よ」と妻は答えた。
「格好だよ、その格好」
「バニーちゃんよっ、他に何に見えるっていうのよっ」
 中須には、角のはえたトドのおばけに見えた。
「なかなか、おいしいわ」
 バニーちゃんは、ケーキを手づかみでぱくぱく食べていた。「残
り物だってバカにできないわよね」
「寒くないのか」
「寒いわよっ」
 妻はまっすぐにこっちを見た。目が、少し、赤いようだった。
「早くあっためてよっ。そう思うならっ」
 中須は懸命に不安を押さえ込むと、妻の体を抱き上げた。まあ寝
室までは僅かな距離だ。一歩足を踏み出す。と、妻がケーキの欠片
を口に押し込んでくれた。ほどよい甘さだ、と中須は思った。






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