インディーズバトルマガジン QBOOKS

第19回1000字小説バトル
Entry34

作者 : ウエダ カホリ
Website : http://www.dion.ne.jp/~kaoriu/
文字数 : 997
 カモノハシのカコは、カモノハシには嘴があるものだっていう事
実が気に入らない。嘴の長さを自慢してカコに求愛するオス達に
「嘴があるかないか、それが問題なの」とため息を付くものだから、
ビー玉のようにキュートな瞳も彼らの恋心に火を付けるには難しい。
 カモノハシは夜行性だが、カコは夜更かしが嫌いだ。けれど太陽
の光はカコの網膜には強すぎてなかなか水面から顔を出すことが出
来ない。勇気を出して顔を出しても、世界があまりに眩しくて、ぽ
ろぽろ涙がこぼれるばかりだ。

「太陽って冷酷。でも昼の地上は真っ白で綺麗よ。冷酷さと美しさ
って比例するのね」

 涙が出るのは目の奥がちりちり痛いからではない。外があんなに
白くて素敵だからだ。

「でも、あたしはただのカモノハシ。綺麗な昼間だって見れやしな
い。あたしなんでカモノハシなんだろう」

 鳥でない自分の嘴と魚でない自分のしっぽをまじまじと眺めなが
ら、カコはほぉとため息を付く。
 そのうち腹が空いて、きらきら光る昼間の水中で渋い顔をしなが
らザリガニや貝や昆虫を捕食する。ザリガニなどはカコを見付ける
とぎょっとしてエビ反りで逃げるけれど、カコは平たい尾をジェッ
ト噴射させていとも容易く彼を捕らえ、滑らかに湾曲する嘴で尽く
甲羅を割って甘い汁を吸う。
 例えばあたしの嘴が長くなかったら、あたしが水中をすいすい泳
いでなかったら、ザリガニはあたしに捕まらなかったのにとカコは
ザリガニを口の中で転がしながら考えた。だからこの嘴は必要だし、
尾も必要。無ければあたしの空腹は満たされない。
 ごくりとザリガニを飲み込んでカコは、そうするとあたしの子は
やっぱりカモノハシなんだろうなと思った。その子の子も、その子
の子の子も、やっぱりカモノハシなんだろうなと思った。

「それって残酷。あたしがカモノハシなばっかりに」

 カコは水面からそろそろと顔を出した。目がズクンと痛んだが、
忍耐強く薄く瞳を開いて白金の世界を覗いた。短い前足で土や倒木
や石や浅い水面を感じながらぺたぺたと岸に上った。目をしばしば
させながら昼間の空気に鼻を向ける。
 突然背に激痛が走り、一瞬の時、カコの体は空を飛んだ。カコは
ギャッと叫んで足でばたばた空を掻く。思わず一杯に開いた目が捕
食者と、山影に落ちるオレンジ色の太陽を映した。
 心臓がどきどき痛い。どきどき、痛い。

「ああ、あたしってやっぱりカモノハシ。真昼間から、空は橙だな
んてね」






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。