インディーズバトルマガジン QBOOKS

第19回1000字小説バトル
Entry36

渋滞

作者 : ショート・ホープ
Website :
文字数 : 1000
 『渋滞はその国の性格を曝し出す』
 どこかの誰かがそんなことを言っていた。反論はしない。じゃあ
この世界の果てまで繋がっていそうな渋滞でいったいこの国の何が
わかるのだろうか?
 煙草に火を付ける。煙草もとうとう最後の一箱だ。

 煙は窓から入ってくる風によって形を否応なく変える。この車内
の空間が灰色に塗られては薄められ、塗られては薄められる。魂の
抜け殻みたいな煙は空間に厚みを与え、ラジオから流れるポップミ
ュージックとジャンクトークが爽やかに鼓膜を掻き乱す。
 
 前のワゴン車がまた少し前進した。アクセルを踏みこの間隔を詰
める。くたびれたような低いエンジン音が身体に伝わる。この渋滞
に出会ってからこの前方のワゴン車と僕の車はこんなしゃくとり虫
的な関係を続けている。  
 
 前方のワゴン車の窓ガラスから女の子が僕の顔をじっと見ている。
僕も女の子の顔を負けないくらいじっと見た。きっと誰もかまって
くれないのだろう。女の子のことについて想像してみる。年齢、好
物、お気に入りの縫いぐるみ、父親似か母親似か。そんな類のこと
を。だが本当のことはわからない。

 動物園の檻に入れられた動物たちが頭に浮かぶ。君の尻尾はやた
らに長いけどどうしてだい?毛深いけど暑苦しいんじゃないの?そ
んな問い掛けが辺りに飛び交う。けど誰も答えない。当然だ。クエ
スチョンマークは宙を彷徨いやがて塵となるだけだ。
 
 目の焦点を女の子に合わせる。女の子が僕の顔を指を差してにっ
こりと笑っている。その小さな手を肩まで上げまた僕に向けた。今
度は握っている。どうやらじゃんけんがしたいらしい。じゃあさっ
きのはちょきだったのか。女の子はまた肩まで手を上げる。僕も同
じように肩まで手を上げる。「じゃんけん、ポン」のリズムを心の
中で取る。少しずれる。僕の方が一呼吸遅いみたいだ。何回か続け
ているうちにリズムの呼応が徐々に合ってくる。勝っても負けても
あいこでも女の子は本当に嬉しそうに笑った。勝負の理論がまだ備
わっていないのだろう。行為自体に喜びを感じている。右隣の車の
奴らがくすくすと笑っている。FUCK!声にならない罵声。別に
いいじゃないか。渋滞にも人それぞれの生き方がある。

 女の子は姿を消した。飽きのたか眠くなったのかそのどちらかだ
ろう。

 短くなった煙草を外に捨て、新たに火を点ける。煙草も数える程
しかない。煙を肺に馴染ませてからゆっくりと吐く。

 それにしても長い渋滞だ。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。