第19回1000字小説バトル
Entry5
マスコミ発表をいよいよ明日に控えて、僕は感慨に耽っていた。 子供の頃、H.G.ウェルズの『タイムマシン』を読んで、この奇 想天外なアイディアのとりこになって以来、片時も実現のためのプ ランが頭を離れたことはなかった。それがついに完成したのだ。 明日、テレビ中継を見る全世界の人々の前で、デモンストレーシ ョンを行う。僕はマシンに目をやった。すると、誰かマシンから降 りて来るではないか。随分と老け込んでいるが、どことなく見覚え のあるこの男。 「おい、お前。いや、僕」 えっ、僕? そうか、これは未来の僕か。 「この機械の発表はやめておこうよ」 なんだって? 「ここまで来るのにどれだけの苦労があったか、誰より知っている のが、お前、いやほかならぬ僕自身ではないのか」 「まあ、聞けよ」 悲しそうに未来の僕は話し始めた。 「最初は良かったんだ。国連を挙げて、生命発生の謎や、未来に飛 来してきた宇宙人の探求にこれが使われた頃までは。 「やがて技術が民間に解放されて、キリストを目撃しに行くツアー だの、自分の遺言の結果を確かめに行くツアーだのが始まった。そ れでも過去や未来に手出ししないという原則は守られていた。 「ところが、マシンが量産化され一般に普及し始めると、借金返済 のために、成長した自分の娘を未来から連れて来て水商売で働かせ る親や、今植えた作物を未来で収穫して持ち帰って換金する企業な どが出始めたのだ。定期預金の先食いなどと共に、これらの行為は 『不正エイジング防止法』によって規制されることになった。 「そしてついに最悪の事態がやってきた。各国で相次いで『未来党』 が政権を握り、実験的な政策を実施しておいて、実地で検証するよ うになった。社会主義や直接民主制への回帰など、様々な政策を試 験的に導入しては、失敗したと言って元に戻す国々。実験台にされ る国民の方はたまったもんじゃない。人々はめいめい好きな時代に 逃げ出す始末。先祖や子孫と結婚して家系図が目茶目茶になる例も あとをたたない。 「このままでは逆恨みされて、混乱の根本原因である僕自身が歴史 から抹殺されかねない。そこで、こうして僕は自分自身を説得に来 たというわけだ。明日の発表はやめてくれるね?」 しばらく考え込んだ挙句、僕は決心した。 「わかった。発表は中止だ」 僕がそう言うと、未来の僕は消え始め、満足そうな笑みを最後に 消滅した。僕は未来を変えたのである。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。