第19回1000字小説バトル
Entry6
青木トシミさんは、そこそこ有名なジャズシンガーである。 CDもそこそこ売れるし、そこそこチャーミングで、そこそこ才能 がある。 「わたしって、なんでも、そこそこなんだわ」 と彼女なりに悩んでいたけど、深刻な悩みには発展せず、やはり そこそこ・・・・・・。 そんな彼女が、僕に絵ハガキをよこした。 招き猫の写真。青木トシミ・招き猫展と四角い書体で印刷してあ る。 ハガキには「招き猫作家も始めました、ぜひ、いらしてね」と、 見慣れた筆跡で添えてあった。 僕は久しぶりにアオキさんに会いに行くことにした。 「どうして、招き猫なの」と、おそいランチをとりながら僕は訊ね た。 「バリ島でね、私の彫った招き猫が神様になっているのよ」と、自 慢げに彼女は言った。 つまり、こういうことのようだった。彼女がバリ島に滞在してい る最中、ホテルの庭で柔らかい石を拾ったので(バリ島には、そん な石がごろごろしているらしい)、なんとなく招き猫を彫ってみた と言う。それは本人が驚くほどの出来映えになった。とはいえ、持 って帰るわけにもいかず、ホテルの庭にちょこんと飾っておくこと にした。次の日、招き猫を眺めに行くとお供え物がしてある。しば らく見ていると、前を通る現地の人たちが、拝んでいる。 「私感動してさぁ、日本に帰ってから、いくつも作ってみたんだけ ど、私の歌より評判がいいかも」 彼女の言うとおり、展示してある作品には非凡な才能が溢れてい た。 数日後、彼女から小包が届いた。クリスマス・プレゼントだそう だ(クリスマスまでには、まだ、ずいぶん間があったけど)。 箱の中味は、大きな招き猫。どこか彼女に顔が似ている。 それは、僕の部屋のドア・ストッパーとして、そこそこ役立って いる。
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