インディーズバトルマガジン QBOOKS

第19回1000字小説バトル
Entry7

最期

作者 : 織原桐哉
Website : http://www.geocities.co.jp/Bookend/6772/
文字数 : 880
「飛び込みだっ!!」
「誰かが電車に跳ねられたぞっ!!」
 
 
 ……うるさい。
 飛び込みだあっ!? 跳ねられただとっ!?
 こっちはそれどころじゃねーんだよっ。
「あーあ、どうしてくれんだよ、これ」
 さっき洗車したばっかだっつーのに。
 俺は凄まじく不機嫌な顔で、フロントガラスに飛び散った肉片を
ティッシュでつまみ上げる。
 ついてねーな、全く。
 こんなことなら遮断機降りかけでも突っ切って行けばよかったよ。
 ただでさえ駅のすぐ横の踏切は、なかなか開かなくてうっとおし
いっていうのに。
 畜生、死ぬなら他で死ねっつーの。
 
 
(あーあ、やっちゃったよ……) 
 私は帽子を深く被り直すと、小さく独りごちた。
 さっきから挙動不信だったから、なんか嫌な予感はしていたんだ。
 困ったなあ。とりあえず警察に電話かなあ。
 救急車は───いらないな、あれじゃあ。
 全く。
 勤続二十年の駅員人生の唯一の汚点だよ。
 死ぬなら他の駅でやってくれればよかったのに。
 
 
「え? お父さんが?」
 あたしは受話器を手に、思わず凍り付いてしまった。
「……はい。わかりました。すぐ伺います」
 それでもなんとか応対して電話を切ると、あたしは心配そうな顔
で後ろで待っていたお母さんに呆然と口を開いた。
「……お父さん……電車に飛び込んだんだって……」
「ええっ!?」
「あたしこれから行ってくるけど、お母さんどうする?」
 あたし同様ぴたりと動きを止めたお母さんは、次の瞬間みるみる
不機嫌な顔になると、
「な……にやってんのよっ、あのロクデナシはっ!! ただでさえ
会社リストラされて家のローンも残ってるっていうのに、この上電
車止めたですってえええっ!?」
「最期の最期までどうしようもないわね。娘として恥ずかしいわ」
「どうしよう? このまま逃げちゃおうか? あんなやつの為に払
うお金なんかないわよ? うちには」
「ああ、いいわ。どうせぐちゃぐちゃで身元なんてわかりっこない
んだから『人違いです』って言ってくる」
「それもそうね。じゃ、絶対認めちゃだめよ」
「わかった。じゃ、行って来まーす」
 
 
「───やれやれ。最期まで迷惑な男だったわね、あのバカ」






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。