第19回1000字小説バトル
Entry7
「飛び込みだっ!!」 「誰かが電車に跳ねられたぞっ!!」 ……うるさい。 飛び込みだあっ!? 跳ねられただとっ!? こっちはそれどころじゃねーんだよっ。 「あーあ、どうしてくれんだよ、これ」 さっき洗車したばっかだっつーのに。 俺は凄まじく不機嫌な顔で、フロントガラスに飛び散った肉片を ティッシュでつまみ上げる。 ついてねーな、全く。 こんなことなら遮断機降りかけでも突っ切って行けばよかったよ。 ただでさえ駅のすぐ横の踏切は、なかなか開かなくてうっとおし いっていうのに。 畜生、死ぬなら他で死ねっつーの。 (あーあ、やっちゃったよ……) 私は帽子を深く被り直すと、小さく独りごちた。 さっきから挙動不信だったから、なんか嫌な予感はしていたんだ。 困ったなあ。とりあえず警察に電話かなあ。 救急車は───いらないな、あれじゃあ。 全く。 勤続二十年の駅員人生の唯一の汚点だよ。 死ぬなら他の駅でやってくれればよかったのに。 「え? お父さんが?」 あたしは受話器を手に、思わず凍り付いてしまった。 「……はい。わかりました。すぐ伺います」 それでもなんとか応対して電話を切ると、あたしは心配そうな顔 で後ろで待っていたお母さんに呆然と口を開いた。 「……お父さん……電車に飛び込んだんだって……」 「ええっ!?」 「あたしこれから行ってくるけど、お母さんどうする?」 あたし同様ぴたりと動きを止めたお母さんは、次の瞬間みるみる 不機嫌な顔になると、 「な……にやってんのよっ、あのロクデナシはっ!! ただでさえ 会社リストラされて家のローンも残ってるっていうのに、この上電 車止めたですってえええっ!?」 「最期の最期までどうしようもないわね。娘として恥ずかしいわ」 「どうしよう? このまま逃げちゃおうか? あんなやつの為に払 うお金なんかないわよ? うちには」 「ああ、いいわ。どうせぐちゃぐちゃで身元なんてわかりっこない んだから『人違いです』って言ってくる」 「それもそうね。じゃ、絶対認めちゃだめよ」 「わかった。じゃ、行って来まーす」 「───やれやれ。最期まで迷惑な男だったわね、あのバカ」
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