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第19回1000字小説バトル
Entry8

千鳥ヶ淵の猫

作者 : さむらいみ
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 千鳥ヶ淵に沿って続く遊歩道を囲む植え込みの中に住む猫が9匹
の子供を産んで、その結果、親姉兄叔母取り合わせて都合15匹の
猫がその植え込みの中にひしめくこととなった。
 秋の終わりの頃の事である。
 子猫たちは順調に猫が猫であるために必要なことどもを学び、雀
を追いかけ、仲間内でじゃれあい、通りかかる人たちからするりと
身をかわし、日溜りの中で身を寄せ合って眠った。
 猫たちが住む植え込みを背にして並ぶベンチに一人の老人が住ん
でいた。その老人が何をもってそこを自分の居として定めたのか、
だれにも分からなかったが、老人の日々は、基本的に猫が猫である
ための日々と何一つ変わる事が無かった。老人が必要としている何
かを同じ様に猫たちも必要としていて、猫たちに必要の無い物は同
じく老人も必要としてはいなかった。つまるところ、老人と猫たち
は、ほとんど、あるいはまったく同じスタンスで世界と対峙してい
たのである。
 激しく冷え込んだ2,3日を含む年末年始の休みが明けて、半月
ぶりほどで千鳥ヶ淵を訪れてみると、老人の姿は無かった。老人の
寝場所だったベンチからは、山積されていた老人の持ち物がきれい
に片付けられていた。猫に餌をやりに来ていた近所のおばさんによ
ると、ある冷え込みのきつかった朝、いつものようにベンチに寝て
いた老人は、そのまま2度と目を覚まさなかったのだと言う。
 猫たちは相変わらず元気だった。多分、今年はたまたま老人の番
だったのだろう。来年はまたきっと別の弱った猫が冬を乗り切れず
に死んでしまうのかもしれない。
 僕は少し、老人の死をもてあましてしまった。野良猫と平等に訪
れる生と死の機会。そのことをうまく飲み込めずにいた。
 その後、僕は何人かのごく親しい友人にその老人について話した。
そして、相手がそのことについて何かを語るたび、ますます老人の
死が僕の胸の中で、飲み下す事の出来ない固い塊となって行った。
 春に近いある暖かい日、僕は千鳥ヶ淵に猫を膝に乗せて日向ぼっ
こしていた女の子と知合った。老人の事を話すと、彼女は話しが終
わると同時に柔らかく微笑んで、「いい話だね」と言った。同時に
僕の中で何かがゆっくりと溶けて行った。






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