インディーズバトルマガジン QBOOKS

第20回1000字小説バトル
Entry15

偽神

作者 : ハクシ
Website : http://popup.tok2.com/home/hakusi/
文字数 : 957
吉祥寺のペットショップ。
血塗れの小犬のディスプレイ。
その前で君が呟いた「偽神」と言う言葉。

「脅えを映し出す雑音と聞こえ出す荒涼の割合を均等に」
薬剤の詰まった袋の処方箋には、そう記されてあった。
病的なまでに白い廊下を無言で歩く。かろうじて生きている。
今日も。明日は分からない。

「偽神」には四肢が無い
「偽神」には目が無い。
「偽神」には口が無い。
「偽神」には鼻が無い。
「偽神」には耳が無い。
「偽神」には感情が無い。

「偽神」は全てを閉ざされて、皮膚感覚と脳髄だけで生きているの
だそうだ。

時々、君の心をこじ開けて中身を見てみたいと思う。
気の抜けたニッカシードルの瓶を指先で弄びながら呟いた。
極彩色のひんやりした愛情が見えると思う、と無表情で返答する君
の横顔が大好きだ。
それ以上の言葉は要らないと思った。

「偽神」は全てを諦らめているという。
「だから、暗い奴と気があうんだよ」
心の底から楽しそうに笑う。
神は彼女の天国の中に居る。全ての世界の中に其れは在る。

血だらけだ、全て。
愉快では無い。
今日は生きていた。明日はどうでもいい。

何もかも増え過ぎた。

錠剤を掌に掻き込んで喘ぐような息継ぎで其れを飲み干す俺に、君
は何時しか何の感慨も残さなくなるのだろうな。
愛してる。嘘じゃない。
何時しか君を血塗れにしてしまうような気がする。
自分から一人になるのは、そんなに恐くない。

「偽神」は相変わらず君の近くに居るという。
彼は何もしない。
ただ、微笑むだけだそうだ。

血だらけの犬のディスプレイの前に立った。
此処の店主は少し頭がおかしい。
この可愛らしい小犬だけを、執拗に折檻する。

「なあ」
「お前も」
「俺も」
「何時か、終るから」
「もうすぐだよ」
「偽神はただ微笑むだけだそうだ」
「きっと」
「何もしないよりは、いいだろうからな」
「何も無いんだ」
「何も」

口を歪まして笑う犬の傍らから離れた。

家に帰る。君が居る。
それと、「偽神」。
君は俺が帰ると本当に嬉しそうに笑う。
何もしないよりは。
笑う方が、いいから。

何時の日か「偽神」はいなくなるのだそうだ。
俺が笑えるようになったら、彼は消える。
その日まで、彼は彼女の傍らで微笑み続けるのだそうだ。
俺の代わりに。






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