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第20回1000字小説バトル
Entry19

無垢

作者 : 羽那沖権八 [ワナオキゴンパチ]
Website : 小説屋やまもと
文字数 : 911
 冷たくなった三歳の息子の身体を、母親はぎゅっと抱き締めた。
「こんな、こんな酷い事を」
 小さな後頭部に出来た傷口はとても小さかった。
「お察しします。慰めにもなりませんが、犯人は絶対に捕らえてみ
せますのでお気落としなく」
 付き添いの警官がうつむく。
「……どうして? この子が何をしたっていうの」
 警官の言葉も聞こえぬ風に、母親はすすり泣く。
「神様、どうしてです? 不公平過ぎます。間違ってます」
 彼女の目は真っ赤になっていた。
「どうして罪もない、未来のあるこの子が死ななきゃならないの?」
 霊安室に悲痛な叫びがこだまする。
「神様!」
 その瞬間、母親の廻りで時が止まった。
 眩しい明かりに周囲が満たされる。
「え――?」
 彼女は戸惑いながら、子供の骸を抱き締めかばおうとする。
『我が子の死を悼むそなたの気持ち、主に届いた』
 どこからともなく声がした。
「神様……ですか?」
 それがこの世ならざる聖なるものの声であることが、なぜか母親
には分かった。
『否、我は御使い』
 御使いの姿は見えない。だが、瞼を閉じても光が目に飛び込んで
くる。耳だけではなく身体全体に声が染み込んで来る。
 光は決して眩しくはなく、声は心を安らかに落ち着ける。
『主の意思を伝え奇跡をもたらす者。そなたの望みを叶えよう』
「それじゃあ」
 希望が母親の顔に射し込んだ。
「この子が生き返るんですか? 生き返らせて頂けるんですか?」
『無理だ』
「できないんですか? これだけ期待を持たせておいて……」
『全知全能の主が、人間の一人や二人復活させられぬと思うか』
「一体どっちなんですか!?」
『出来ぬのではなくなさらぬのだ。人はアダムの罪故に罰として楽
園を追放され、命を区切られ必死の存在となった。復活は、主の意
思に反するのだ』
 諭すように御使いは答える。
『そこで、罪ある者に死を与える事にした』
「通り魔犯人に死を? ちょっと悪魔的ですけど、まあそれでも悪
くはないですね。何もないよりはマシです」
『うむ。それでは、その子以上に罪ある者全てに等しく死を与えよ
う』
「全て?」
『罪ある者が死ぬのだ、正しかろう?』
「ち、ちょっと待って下さい、それってつまり……」
 ばさっ。
 羽音が一つした。






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