第20回1000字小説バトル
Entry2
我が軍は劣勢だった。 これまでにも苦しい闘いは、幾度となくあったし、私自身、闘い の最中に傷つき、前戦を退かざるを得ないという経験も多々あった。 それでも我が軍は正義の神の導きのもと、最後には勝利を納めてき たのだ。その中には、歴史に残るであろう華麗な逆転劇も多く含ま れている。どんな窮地からでも、我らの担う正義が、必ず我が王に、 ひいては我が神に勝利をもたらした。我が神の正しさゆえに我々は いつでも、勝利を確信して、闘い続けてきたのだ。 だが、今度ばかりは敗色濃厚だった。長年培った経験を用いてさ えも、状況を打開する糸口を見いだすことができない。闘いの場で は、常に戦場を所狭しと駆け回った我が軍も、ことこの戦に関して は、勝手が違う。敵は我が軍の動きを完全に掌握しており、我々は 戦の当初から常に後手に回らされていた。すでに歩兵隊は全滅、敵 の侵入を防ぐはずの城壁も打ち倒されている。 私は騎士の名誉を汚さぬよう、堂々と闘い抜くつもりではいるが、 それにしても、邪神を戴く黒き異教徒たちに、我が常勝軍団がここ まで追い込まれようとは。神が過たれたのか? 正義は我々になか ったのか? 何故だ? いや、実を言えば、私には分かり始めてい る。恐ろしい真実が。そう、我が神はもう正義を名乗れなくなりつ つあるのだ。 神々の闘いは、勝者こそ正義。ルールはそれだけだ。神の正義を 証立てる為、我々は闘う。全ての闘いは、神々の代理戦争に他なら ない。神々の白黒をはっきりさせるのは常に我々だ。そして必ずし も白が正義とは限らない。勝利すれば、黒き正義も存在しうるのだ。 現に我々を追いつめる新たな正義の軍団は黒き衣に身を包んでいる ではないか。悪魔のような黒き衣に。私は敵の歩兵を倒しながらそ う思った。勝利、それだけが、この世界の正義を決めるものだ。正 義ゆえの勝利ではなく、勝利ゆえの正義。であるなら、正義とは何 なのか? 劣勢に陥った今、初めて私は正義に対して疑問を持った。 それがいけなかった。思考が私の注意を削いでいた。やってくる敵 騎士の一撃をかわすことができず、私は倒された。 (王よ……) もう王は逃げられない。あの闘いの終わりを告げる神の声、これ までいつも我が神の発してきたあの声が響き渡った。 「チェックメイトだ。チャンピオン」
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。