第20回1000字小説バトル
Entry20
西暦二〇一〇年。日本は二十世紀末から続く不景気から依然とし て脱却出来ず、失業率も十パーセントを超えるまさに大不況時代を 迎えていた。 そこで政府は、これまで行っていた公共事業やIT推進による景 気対策を断念。新たに新会社法を制定して、企業社会の仕組みを抜 本から変えて景気浮揚に結びつけることとした。 同法が今までの法律と最も異なるのは、今まで株式会社の最高議 決機関が株主総会だったのを、社員相互の投票に改めたこと。社長 をはじめとした役員も、社員全員が「役員にしたい人」と「役員に したくない人」を選んで投票。両票をプラスマイナスして、最も得 票数の多い社員が代表取締役社長に選出される。 N県にある社員百五十人の日用品卸商社太陽商事もこの法によ り、新社長には、入社二年目の美男子で女子社員の票のほとんどを 集めた中村卓也が就任。ここまでオーナーとして全権を握ってきた 前社長の岡田好男には三票が投じられたが、四十票を超える「役員 にしたくない人」の投票が集まり、岡田はフォークリフトの運転手 としてどうにか社に残ることにができたのだった。 新社長といっても、これまで中村は営業部の下っ端として配達係 を務めていただけで、人事も経理も物流もまったくの素人。そし て、誰からも好かれる性格ではあったが、決断力がなく優柔不断と さえ言われていた。 そして新体制になり十日が過ぎたころ、来年の取り扱い商品を決 める役員会を開催。専務には、多くの男子社員の票を集めた前社長 秘書の坂井由紀が、常務には三十年間商品梱包を担当してきた田村 弥五郎が就任していた。 中村は、ほとんど発言せずに他の役員の意見を聞くだけ。田村の 「そんな梱包しにくい商品は売れん」や、坂井の「そんなの若い女 性は買いませんわ」などの決まり文句にも表立った反論はせず、 「それでは皆さんで話し合いましょう」とにこやかに微笑むのだっ た。 そんなこんなで三時間ほどで役員会は終了。広く全役員の意見を 聞き取り扱い商品を決めた太陽商事は、次年度の利益が五十パーセ ントもアップ。日本中の多くの企業でも同じようなことが起こり、 日本は十数年振りに不況から脱却することができた。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。