第20回1000字小説バトル
Entry23
荒涼とした大都会。 今夜も6畳一間の安アパートで取る、孤独な夕食。 惣菜屋で買ってきた、一個120円のメンチ。保温を忘れたために 冷えたままのどんぶり飯。せめてもの救いのあったかいインスタン ト味噌汁。 やがて食い過ぎたせいか、腹部に違和感。駆けこむ便所。下る腹。 耐える腹痛、疲労する尻の筋肉。ふと窓の外に見つけた鋭い三日月。 押し寄せる寂寞。 振り返る過去。思い起こす半生。 誘った女は無数。つきあった女は皆無。哀しいかな、我が癖。ど うにかしたい、この話し方。俺は体言止めの男。 気味悪がる女達。避ける隣人。逃げる新聞勧誘員。俺を遠くから 指差しては笑う、三輪車の子供達。 ついに一念発起。目指すは病院。捨てるぜ恥に外聞。 「変わってますな」のたまう医師。 「乞う、救助」 「まあ、気長にやりましょう、治療」真似する医師。 わからぬ原因。目の前に広がる暗雲。立ちはだかる試練。迫り来 る絶望。徘徊。 気付くと、ここはビルの屋上。足の下には、豆つぶのような車。 吹き付ける突風にぐらつく足元。その時、背後から響く声。 「何をする気なの?あなたは」 振り向くと、そこに若い女。風になびく長い黒髪。真っ赤なコー ト。 続ける女。 「飛び降りるつもりじゃないでしょうね、まさかそこから」 答える俺。 「笑ってくれよ、俺の癖。面白いだろ、この話し方。もういいんだ、 この人生」 はっとする女。 「体言止めの男ね、あなたは」 俺の身体を走る衝撃。見開く両の眼。思わず問いかける女の正体。 答える黒髪の女。 「あなたと同じ悩みを持つ女よ、私も。出来ないのよ、決まった話 し方しか。気がつかない?この話し方で。そう『倒置法の女』 なのよ、私は!」 しばし止まる時間。彼女の頬を伝う涙。 「私もしようとしたのよ、自殺を。誰もわかってくれないのよ、私 たちのことなんか」 「馬鹿にされ続けたこれまでの人生。かっこつけてんじゃねえとい じめられた青春の日々。毛頭そんなつもりはないのに、哀しいかな、 この体言止め」 「同じよ、私も。言われ続けたわ、『おやめなさい、その芝居がか った言い回しは』って。誰も望んでないのにね、こんなこと」 歩み寄る二人。差し伸べる互いの手と手。女を抱き寄せる俺。応 じる女。芳しい黒髪。 「神様が引き合わせてくれたんだわ、私たちを。きっとどこかにい るものね、ふさわしい伴侶が」 幸せにするぜ、倒置法の女。素晴しきかな人生。俺は体言止めの 男。
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