第20回1000字小説バトル
Entry25
さっきからJは綺麗にマニキュアが塗られた指をバーカウンターの 上で暖炉にあたるようにひろげ、裏返したりしている。 彼女の隣にはLが座り、空いたスコッチロックの氷を回し、苛立た しそうに音を立てている。 「なにかお代わりでも」バーテンが気を遣い声をかけた。 「同じのを、今度はダブルでくれ」 「かしこまりました」 僕はLとは反対側のJの隣に座っていたが、彼がもうかなりできあ がっているのは容易に見てとれた。 あんなことを5年も付き合っていた彼女に言われたら、スコッチを 何杯も飲みたくなるだろう。 「もう一度聞くが、そいつとはその、寝たのか?」彼が切り出した。 彼女は静かに深く頷いた。 「それはつ、つまり…」 「Hよ」 彼女ははっきりとした口調で答えた。 「何故、何故だ、なんでそんなGなんて奴と、…」 「違うのよ。私はあなたを心から愛してるわ。これは本当よ。 た だ・・」 「ただなんだ?」 「Gと私の間でそれは避けて通れないことだったのよ。でも誤解し ないで、Gなんてこれぽっちも興味ないのよ。 ほんと、今ではすごい後悔してる。」 そこまで言うと彼女はカウンターのジントニックを飲み干し、泣き 出してしまった。彼女を幼い頃から知っている僕にはそれは演技に しか映らなかったが、彼には違ったらしい。 「もういいよ、泣くなよ、J、もういいから…・」 「本当?」 「本当だよ」 「…・嬉しいっ ヒック、Lの、ヒッ 言葉が一番 ヒッ 好き」 相変わらず演技がうまいな、と僕は感心し、モスコミュールを持っ てテーブルに移動した。 一時間後、彼らはどこから見てもアツアツのカップルだった。 「それにしても、君達がこんなドライな関係だとは知らなかったよ。」 僕は興味本位で聞いてみた。 「T君は手紙派ね、Eメールやんないでしょ?」 「やんないけど、それがどうかした」 「キーボードをあまり見ないかってことだよ オレはLで彼女はJ だぜ 鈍いな お前は。」 僕はキーボードを頭の中に浮かべた、(彼がLで彼女がJでGがい てHがあって、) 「ということは君達は…」 僕が振りむくと彼らは熱いディープキス(K)の最中だった。 「やれやれ 勝手にしろよ、キーボード、もう疲れたからパソコン 切るぞ、ピィ〜」
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