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第20回1000字小説バトル
Entry27

焚き火

作者 : 伊勢 湊 [イセミナト]
Website :
文字数 : 1000
 その冬の終業式の夜、僕はその町から引っ越すことになった。冬
に入ってから父ちゃんと母ちゃんは寒く狭い居間でよく話し合いを
していて、ある夜、そこに僕と妹も呼ばれた。そこで父ちゃんは目
に涙を浮かべながら僕達に引っ越さなければならなくなったことを
告げ、そして、辛いだろうがこのことは友達にも誰にも言ってはい
けない、と言った。

 終業式は午前中で終わる。誰かがいると寂しくなっていろいろ話
しちゃいそうだったから、みんなが帰るのを待って斜下だけ見つめ
て一人で帰った。

 学校と家との間には大きな御屋敷があってそこで雇われているお
姉ちゃんはいつも屋敷の脇で焚き火をしている。僕は友達とそこに
立ち止まり、お喋りをしたりお姉ちゃんに焼き石を作ってもらった
りするのが好きだった。焚き火の中で真っ赤になるまで焼いた石は
布巾に包んでおくとしばらく暖かかった。僕の家はお金がなくて寒
かったからいつもたくさん貰って帰った。
 
 お姉ちゃんが焚き火をしてないことを祈りながら下を向いて歩き
続けた。黙って引っ越すのが辛いのは友達のせいもあったけど一番
は憧れていたお姉ちゃんのせいだった。いつもは会いたくてたまら
なくて、だからこそ今は絶対に会いたくなかった。
 なのにパチパチと小枝が燃える音と顔に照りつける火の暖かさは、
そこに焚火があることを僕に知らせ、足を止めた。
「どうしたの?今日は一人?」
お姉ちゃんが言った。
「うん」
「なんか寂しそうだよ?下ばかり見て」
「うん」
時折突風が吹いて、枝を切る風は虎落笛を鳴らし、焚火は勢いを強
くする。そのあとでお姉ちゃんが竹箒で散らばった落葉をさっさっ
と集める音がした。
「ぼく、引っ越すんだ」
思わず言葉がついて出た。沈黙の後にお姉ちゃんは優しく言った。
「寂しい?」
「うん」
「わたしも…でも、少し羨ましいかな?」
「どうして?もう会えなくなっちゃうんだよ。友達も、学校も、焚
き火も、お姉ちゃんにも…」
「そうね、寂しいね。ずっと好きな人と好きなところにいれたらい
いのにね」
「うん」
お姉さんの言葉が何かすごく遠いところにあるものに聞こえ、それ
が虎落笛に掻き消されそうで、悲しくて、
涙が止まらなくなった。

 お姉さんはポケットから取り出したハンカチに焚火から取り出し
た焼き石をいくつか包んで渡してくれた。その夜は見知らぬ空の下
でのすごく寒い夜になったけど、その焼き石の暖かさはずっと遅く
まで僕の懐の中に残っていた。
 






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