第20回1000字小説バトル
Entry30
年賀状の返事を書いていたら、「あんたはどうするつもりなのか しらね」と、ため息混じりに母が言った。 「どうするって、何?」 あたしは少し振り返って答える。「今年も元気にすこやかに、じ ゃだめなの?」 「寿子ちゃんなんか二人も男の子がいて、かわいいわよ。もう、こ んにちは、とか上の子は言って」 「うん、大きくなったね」 あたしは宛名を書きながら、相槌を打つ。「いいお母さんになっ ちゃったね」 「結婚は、しないの?」 「うんまだ」 「まだって、もう、そんな歳じゃないのにねえ。まあこればっかり は」と、ため息をついて、「しょうがないんだろうけど。でも、し そうなこと、言ってたのに」 「そうだっけ」 「そうよ。まあ仕方ないわね、あんたの人生なんだし」 そう言うと母は、今朝来た分のあたし宛の年賀状を机に置いて、 部屋を出ていった。 『昨年はいろいろ有難う。今年も宜しくお願いします。お互いに、 良い年になりますように。』 あたしはその一枚を手にとって、しばらく眺めた。ずいぶん素っ 気ない文面だけど、筆無精の彼にしては上出来だろう。そっと、文 字をなでた。 他に何も書いていないところをみると、また今度も再就職はだめ だったにちがいない。このご時世だからと多少の覚悟はしていたけ ど、年齢的にいっても、これほど難しいとは思っていなかった。こ んなことになるなんて。入社したときは、まさかそんな。五年勤め たら倒産なんて。 「ちょっと、行ってくるね」 あたしは階段を降りると、母に声をかけた。 「行くってどこに」 「年賀状、出してくる」 「あ、そう。じゃ、これもお願い」 母から葉書を数枚受け取ると、あたしは自転車に乗って家を出た。 風のない、あたたかな朝で気持よかった。道路も空いている。な んとなく晴れやかな気分になって、あたしはがんがんペダルを漕ぎ まくった。 高校時代は毎朝すっとばしたものだ。髪をびゅうびゅうなびかせ て。 不意に思いついて、通学路を走ってみる。ポストなんかちょっと 行けばすぐにあるのに、なつかしい道を気まぐれに走ってみた。や がて視界がひらける。 真っ白な雪を頂いた富士山が視界に映った。 あたしは、ペダルに足を踏ん張らせて立ち上がったまま、自転車 を走らせた。鮮やかに白く浮き上がった富士山を横目に、髪をなび かせ風をきる。 ねえダーリン、大丈夫。 笑いながら、青く輝く空に顔を向けた。 新世紀がやってきたよ。あたしたちの、時代だよ。
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