第20回1000字小説バトル
Entry5
タメ子は独身で40歳の普通のOLだ。 経理課出納係でお局様と呼ばれている。 仕事も人望もそれなりなのだが、アレの日の酒宴となると、満月の 夜の狼男を凌ぐパワーを身につける習性がある。 その周期を察知している古株の部課長クラスは、うまく彼女と接し 立ち回っているが、悲惨なのは毎年の新入社員達である。 今年で入社2年目の山崎は4月の新入社員歓迎会の席で、一気飲み ではなく一気吸い込みで、救急隊員の世話になった。 後日談によると、山崎は窒息による酸欠で仮死状態だったらしい。 退院してからも、悪夢が何度も蘇り、女性恐怖症になった。 タメ子は先祖代々の海女の家系で、素潜りには3歳から慣れ親しみ 6分半の息止め記録をもっている。 同僚の佐藤は暑気払いのビアガーデンで、裸踊りではなくパンツひ とつの半裸で、泡吹いて逃走した。 その日の宴会も盛況の中、羽交い締めにされた彼は 「先輩止めて下さい○○玉があああ……。キスだけの約束オオゥ」 と言い捨て、引き裂かれたYシャツ、引きちぎられたネクタイ、股 の裂けたズボンをほおり投げ、白目をむいての脱出劇を演じた。 翌日から彼は男が好きな性格に変わってしまった。 タメ子の握力はアワビ剥きの手伝いで鍛え上げられ、左右とも70 KGを維持している。 恐ろしいことだが、先程の事件もこの事件もすべて、お局様がかか わっているのである。 アレの日の酔った彼女の上機嫌な名台詞は『気に入ったら離さない! アフーん』だ。 宴席でのキス魔は社内でも評判だが、お口爽やかどころの騒ぎでは ない。 酒とビールと酎ハイのブレンドされた吐息の中、スルメの香りのす るヘビ苺みたいにザラついた舌が強引に挿入されてくる。 それは舌を噛み切るほど強力なバキュームで吸い上げる地獄のキス だ。 タイガーウッズも顔負けのタラコ唇の完成と相成る。 しかもキスの最中の癖なのか、○○玉をぎゅーっ、ミリミリと鷲掴 みになさるのだ。 彼女の化粧映えする顔やブランド志向のこぎれいな雰囲気からは、 まったく想像もつかない。 酔って、女上司に気に入られようと冗談でキスぐらいならと調子に 乗るノー天気野郎は、死への片道切符を手に入れる事になる。 今年の総務経理合同忘年会もそろそろだ。アレの日と真にかさなら なければ良いが……。 総務課から恐らく2〜3人は犠牲者が出るだろう。 ああ、また聞くことになるのか、あのミリミリという音。そしてあ の名台詞。 『気に入ったら離さない! アフーん』
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