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第20回1000字小説バトル
Entry8

瑠璃色の記憶

作者 : 要目凛
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文字数 : 654
「ねぇ、父さん。あたし前世は魚だったと思うの」
 ザザン、ザザンと寄せては返す波をみつめたまま、娘が言った。
  
 一面の美しい瑠璃色。空と海の境界線がどこであるかさえ、分か
らない。広く、鮮やかに、どこまでも、どこまでも、続いている。

「きっと、そうよ。あたしは知っているの。太陽が注いで、宝石み
たいに光る水面も、体を包む水の優しさも」
 そうか、と私は微笑む。一匹の魚が泳ぐ様が、目に浮かんで、
消えた。
「私は、海藻だったかもしれないな。緑の両手で、お前を包んで
いたんだ。傷つかないように、安心して眠れるように」

 娘が、くるりと振り返った。赤いワンピースが、花びらみたいに
揺れる。彼女は顔を上げると、大きな両目で私を映した。
 
「私はね、生まれてきたお前を見た時、ひどく懐かしい気がしたん
だ。こんな話は、おかしいかい?でもね、確かに”何か”を感じた」
「生まれてきたあたしに、父さんは何て言葉をかけたの?」
 瞳に私を映したまま、娘が訊いた。
「ん?お帰りっていったのさ」
「お帰りかぁ・・・」
 彼女は口元に笑みを浮かべると、海へと歩を進めた。

 ザザン、ザン。
 波は大きくうねると、途中で砕けて音をたてた。その後で、細か
く白い泡が、浜へ押し寄せる。
 私も、歩き出す。象牙色の砂が、素足にまとわりつく。ほんの少
し、熱い。
「海って、不思議ね」

 −そうだね。多分海だけが全てをしっているんだ。

 ザザン、ザン。ひとつ、またひとつ、止まる事なく、音を刻む。
 それは、時代をこえて響いていく。






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