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第21回1000字小説バトル
Entry1

美しいもの。

作者 : そる
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文字数 : 624
  朝日がまだ朝日らしさを失っていない時分に電車に乗り込む。
まだ通勤時間には早く人はまばらだ。
入り口近くの席に座り、バックの中から「掌の小説」を出す。
パラパラとページをめくり「火に行く彼女」のページを探す。
電車が動き始め、アナウンスが流れる。
穏やかな一日。学生の私は時々行く当ても無く電車に乗る。
そして、穏やかな気持ちで景色を眺め、文字を追い、思いに耽る。
何故川端康成は夢に彼女を見たのだろうか。
愛を知らないはずの彼がどうして涙を流したのか。
 電車が陸橋に差し掛かり、単純な直線が規則的な三角形を作り出
す。
優しい光と暖かい影が交錯する。
小説に目を落としていた私は光と影の戯れに思わず目を細め、諦め
たかのように小説を閉じる。
ふっと視線を正面に移す。窓の外には汚れていたはずの川が見える。
その瞬間の川は太陽に祝福されたがごとく光り輝いていた。
 私はその瞬間、その川を美しいと思った。
普段気にも止めない汚れた川。
美しかったであろう水は緑色に変色し、川辺には大量にごみが捨て
られ、それが当たり前であった川。
命の無い川のはずだった。
思わず涙が溢れそうになり、頭を下げた。
きっと美しいものというのは日常の中に潜んでいて、ある瞬間だけ、
しかも気まぐれにその姿を見せるものなのであろう。
周りを見渡せばきっと見つかるだろう。あなただけの美しいものが。
あなたしか知らない、あなただけの美しいもの。
きっとそれを見つけたとき、あなたは涙を流すだろう。
私がそうであったように。






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