第21回1000字小説バトル
Entry11
「ほら、そこを抜ければきっと出口さ。」 僕は玲子の背中を押すように声をかけた。もう何時間ここにいるこ とだろう。実際、ここには僕たち以外の誰もいないようだ。 はじめの何時間かは誰か助けてくれるものだと思って叫びつづけて いたし、それは僕たちと同じ境遇にある人たちを探すことも手伝っ ていた。 「この曲がり道が最後のはずよね。」 ぼんやりと見える両壁はびっしりと苔に覆われており、その奇怪さ は表情を持たない。ここはさっき通った道。いや違う道。ここまで は一本道だったんだし、ここからもそうだろう。とうに足はいうこ とをきかなくなっている。自分の体までもがこの壁の味方のようだ。 玲子は曲がり角の手前で座り込んだ。 「ねえ、ここで休もう?」 ここが最後の曲がり角であると思っているのは、ただそれを信じた いのに過ぎない。それを解っていて、それが裏切られることが解っ ていて、玲子はここに座るのであろう。僕は知っているここに出口 が無いことを、…だって今まで無かったんだ。ここにどうやって入 ってきたのかもしれない。自分の意思でないにしろ入ってきたのな らば、ここには出口もあるだろう。それよりも入り口から出ればい い。…僕たちはどうして後ろに戻らないんだろう。ここまで進んで きたからか?もしかしたらはじめから反対方向に進んでいたら、今 ごろは外に出られていたのかもしれない。今ごろ、僕は自販機で煙 草とコーヒーを買っていつもの自分に戻っていたんだ。…戻ってい たんだ。 「座りなよ。」 玲子はどうして向こう側を見ようとしないんだ。何を期待している のだ。男と女が二人きりでこんなところにいたら、何か起こると思 わないのか?そんなに信用されているのか?それとも相手にもされ ていないのか?こいつは僕の何を知っているというんだ。 玲子の汗が首筋を伝っていく。息をすれば嫌でも女の匂いがする。 もしここを出られてそんな事をしていたらただじゃすまない。こい つはそんなことには堪えれるやつなのだろうか?ここであっただけ の女のこと、解ろうはずが無い。でもここでこいつを置いて一人で 行くことだってできるんだ。今、主導権はこちらにある。嫌でも二 人っきりなんだ。それにはこの曲がり角の先を見なくてはいけない。 玲子はこちらを見ている。蒸し暑いのか、首筋には汗が伝っている。
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