第21回1000字小説バトル
Entry12
T将軍は、祖国の胸から生まれた。彼は幾度もの戦いに参戦し、 常に敵軍をうち破ってきた。無謀な烏合の衆との戦いだけではなく、 狡猾な侵入者をも排除してきた。代々続くエリート軍団。将軍の前 に、敵はいないはずだった。 第三次インフルエンザ会戦も、もはや勝利は目前だった。 「報告します。M軍団、B軍団ともに快進撃を続けております。報 告によれば、敵軍に未確認軍団は含まれていない模様。このまま増 援を送り続ければ、勝利は目前です」 将軍は頷いた。 「よし。上々の戦果だ。去年は少し手こずったが、今回は無事に終 わりそうだな。だが、気は抜くなよ。敵はいつどこから現れるかわ からんのだ」 士官は頭を下げ、再び陣営を後にした。 「これで、兄上にも少しはよい土産が出来るな。兄上もきっと、祖 国のために南部で大忙しだろう」 「左様ですな」 同僚は、「しかし」と続けた。 「東部で健闘した優秀な士官が、軍法会議にかけられたのをご存じ ですか?」 「なんと……初耳だが」 「なんの嫌疑かも分からぬそうで、我らは訝しんでおります」 B軍団は確実にミサイルを撃ち込んでいた。敵軍勢はことごとく 壊滅し、最後の砦を残すばかりとなった。 「よし。あと一息だ」 将軍は、各大隊に指令を出す。 「M第一から第三軍団は、一直線に接近し、敵を破壊せしめること。 第四から第七軍団は退路を断ちつつ迂回すること。B軍団は、全軍 乱戦に持ち込んでミサイルを発射せよ。至近距離まで接近したなら ば、敵の動きを拘束せしめること」 居並ぶ兵達が勢いよく返事をする。各員は緊張をうちに秘め、号 令を待った。一声を聞き次第、我先にと躍り出る用意が出来ていた。 「参謀本部より、ご使者です」 H参謀が案内され、軍団の集結所に現れた。 「参謀本部より参った。T将軍に主命がある」 恭しく一礼し、将軍は主命を待った。 「T将軍に命ずる。即刻切腹いたせ」 「な、なにを! なんと申された」 参謀は繰り返した。 「ふざけたことを申すな。祖国のための戦いの最中である。戦歴も ない参謀本部の指示など聞けぬ」 「主命である」 軍団がざわめく。将軍は無視しようとした。 「主命である」 生粋の軍人に、命令不服従という選択肢はない。 「……後任の将軍は……誰か」 「おらぬよ」 「祖国はどうなるのだ」 H参謀の活躍で、優秀な指揮官が姿を消していった。第三次イン フルエンザ会戦は、インフルエンザの大勝利に終わった。祖国は滅 んだ。
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