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第21回1000字小説バトル
Entry13

愛を感じるとき

作者 : やまだ小麦也
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文字数 : 962
 その定食には愛があった。
 注文したものが運ばれてきた時、味わう時、レジで金を払ってい
る時、俺はいつもそう感じた。
 ショウガ焼きの肉汁が滲みないようにと、つけあわせのポテトサ
ラダの下の大葉がさりげない。味噌汁の具の豆腐の角は清らかな形
を保ち、たっぷりとマヨネーズを乗せた千切りのキャベツは、これ
でもかという程の量感をたたえている…。

 昼12時。
 俺は別に仕事の鬼ってわけじゃないし、納期に追わているわけで
もないので、昼食は必ず外食である。同僚の中には、出勤途中にコ
ンビニで仕入れてきた冷えてカタイ握り飯にパサパサのサンドイッ
チ、なまぬるい缶コーヒーなどを、節電のため照明の消えたデスク
でひとり腹に詰め込む奴もいる。信じられない。お前は何の為に生
きているのだ。また、どこからか、愛妻弁当のノリと醤油の混じり
合った香りも漂ってくるのだが、しかし、違う。
 
 俺は、冷えた食事は嫌なのだ。正確に言うと、その時欲する物を
身体に入れたい。味わいたい。食事の内容の決定権は、常にこの俺
にある。猛暑の時にあんかけうどんを食おうとも、マフラーの欲し
い日にざる蕎麦を食おうとも、昼食の選択と決定が俺の生きる権利
と同程度の価値を持つ限り、それはあくまでも自由でなくてはなら
ない。たとえ上司の「うなぎ奢りデー」であろうとも、自分の気分
が乗らない限り金魚のフンのように皆と同じく無感動な表情で行動
を共にすることは絶対にあり得ない。サラリーマンとしての資質を
問われようとも、「主義」を持って生きることの方が、人間として
重要ではないか。
 
 今日も、その定食は俺の人生を豊かにしてくれた。俺の選択が、
生き方が正しいと、励ましてくれた。だが、この店に来ることはも
う無いだろう。
 この世にはまだまだ苦行に等しいランチ850円也だってある。俺
の思考過程のどこにミスがあったのだと、レジで叫びたくなること
もある。そこでひるんではならない。何事も経験なのだ。しかし、
経験を積み、揺るぎない選択眼と確固たる自信を持つことができる
ようになっても、必ず失敗はある。そんな時、あの定食は俺の心の
中で、深く静かに激しく強い慰めとなってくれることだろう。
 
 愛を、ありがとう。
 俺は一度もふりかえることなく、その店を後にした。
 







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