第21回1000字小説バトル
Entry15
「嘘吐き!」 彼女は泣き叫びながら僕の蟻を踏み潰していた。僕に当たらない で僕の蟻に当たるのはフェアではないと思うのだが、きっと泣き叫 ぶ彼女にはそんなことお構いなしなのだろう…… そもそも、僕がどんな嘘を彼女についていたのかというと、隣の 家で飼われている犬の髭の本数が実際は48本あるところを「43本だ よ」と彼女に教えたからだ。隣の家の犬の髭の本数が彼女にとって どれくらい重要なことなのかは僕には想像もつかなかったが、とに かくそのことで、彼女は僕に「嘘吐き!」と言い、僕の蟻を容赦な く踏み潰していた。 僕は時々嘘を吐く。もちろん、アリバイ的な嫌らしい嘘も吐くこ ともあるが、だいたいはろくでもない嘘だ。別に嘘を吐きたくてつ いているわけではない。今回のことにしても、隣の家の犬の髭の本 数なんて僕には、全く興味がないから数えたこともないし(彼女は 僕の言った数と合わないために3度も数えたらしい)、デートの帰 りに彼女と隣の家の前を歩いている時に、たまたま思いついたから 何となく言ってみただけなのだ。 彼女にいわせると、それが彼女を深く傷つけているらしい。確か に嘘を吐かれたら良い気分ではないだろうけれども、許せる嘘と許 せない嘘があるとすれば僕の嘘なんて確実に許せる嘘のはずだ。 僕は僕の蟻を救うためと、彼女の機嫌を直すために「もう嘘はつ きません」と誓うことにした。誓って直るようなものでもないよう な気がしたが、とにかくその時はそうするしか方法がなかったのだ。 そして、僕は彼女との誓いを3年間守りつづけている。僕の思い つきの嘘が、いったいどこにいったかといえば、僕は小説を書くよ うになった。テーマもなにもない思いつきのろくでもない小説を書 いている。 彼女はといえば、僕のことを洒落た冗談もいえない詰まらない男 になったと言っている。彼女に踏み潰された僕の蟻のことなんてす っかり忘れているのだろう。 でも、とにかく彼女は泣き叫ばないし僕の蟻は平和に暮らしてい る。 めでたしめでたし
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