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第21回1000字小説バトル
Entry16

メールで愛

作者 : 吉原 明
Website :
文字数 : 1000
 仁はパソコンのキーボードをカタカタカタ。送信ボタンをクリッ
ク。
「はじめまして。僕は東京都内に住む二十歳の大学二年生です。学
部は法学部ですが、半年以上学校に行っていないので、学生と言え
るかどうか分からない状態です。出会い系サイトでメル友を探すの
は初めてですが、文学、パソコン、テレビドラマなどについて話の
合う人を求めています」
 四時間後、仁のパソコンに里香からのメールが届いた。
「『出会いの輪』を見ました。私は神奈川県に住む十九歳の女性で
す。ちょっと身体が弱いこともあって、高校卒業後は家で母の手伝
いをしています。昔風に言うと、職業は家事手伝いでしょうか。テ
レビドラマでは、今、NHKの『オードリー』がいいですね。長島
一茂が回を追うごとに上手くなっているし、主役の岡本綾もかわい
いですね。あなたはどんなドラマを見ていますか」
「僕も『オードリー』は毎日見ています。岡本綾は『あすか』や
『やんちゃくれ』などと比べても、最近の新人女優の中では一番い
いのではないでしょうか。将来に期待がもてますね。話しは変わり
ますが、実は僕は学校に行かないだけでなく、この半年間、外に出
ていないのです。世間では引き篭りと呼んでいるようですが、なん
とか外に出たいのですが良い方法がありましたら教えてください」
「私も八ヶ月くらい外に出ていません。厳密に言うと、家がマン
ションの五階にあるのでベランダには出ますが、地上を歩いた時の
ことは思い出せないくらいです。私も一生このままではいけないと
思っています」
「僕と同じですね。それでは僕たちは一度逢ってみませんか。付き
合うわけではなく、お互いの社会復帰のために。約束すれば外に出
ない訳には行かないでしょう。あなたの最寄の駅を教えてくださ
い」
「私の家からは、京浜急行の六浦駅が一番近いです」
「僕の家は品川区ですから、それでは京浜急行横浜駅の立ち食いそ
ば屋の前でどうでしょう。あなたの都合のよい日と時間を指定して
ください」
「場所はわかりました。明日の午後二時ではいかがでしょう。その
ころなら電車も空いているでしょう」
「わかりました。それでは僕が目印にノートパソコンを持って立っ
ています」
 そして、翌日時間ぴったりに二人は逢った。喫茶店に入り向かい
合って座ったが、お互い数ヶ月も他人と接触していないため会話に
ならず、仁の「僕たちメールに戻ろう」の一言で僅か五分で喫茶店
を後にした。






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