第21回1000字小説バトル
Entry18
だかだかだか。機関銃大連射だ。残りダマを気にする必要は無い。 もう体勢は決している。 負けだ。俺達の敗北だ。俺達はもう助からない。ここで、この無 意味な戦場で、俺達の理想や未来や家族や大切なものや息子の泣き 顔やラッシュアワーなどとはこれぽちの関係も無いここで、俺達は 死ぬ。 そうら祝福だ。景気付けだ。となりでは大声を張り上げて、もう 二年も一緒に戦ってきた戦友がぽんぽんと手投げ弾を投げ続けてい る。とても暗い奴で内向的で皮肉屋で、そして音楽が好きで。どこ にでもいる典型的な逃避型の人間だ。最初に出会った時、奴は「ミ スターセルフディストラクト」を歌っていた。二年の間に「勝手に しやがれ」を覚え、今歌っているのは第九交響曲第四楽章「歓喜」。 晴れたる青空流れる雲よ 飛び交う弾丸。爆音。小鳥は歌えし林に森に。もう俺達のいる森 は完全に囲まれている。俺は機関銃のマガジンを取り替え木々の向 こう側に透けて見える黒い影のような軍団に向けて撃ちまくった。 となりではもうだいぶめちゃくちゃな第九。さあ祝福だ。おめでた だ。キャンユーセレブレイトだ。さあ来い。俺はここだぞ。ここに いるぞ。苦悩を突き抜け歓喜に至ったぞ。 思えばこうなるまで俺達はこんなに銃を撃ったことは無かった。 もう敵陣では数え切れないほど手投げ弾の爆炎が上がったし、俺だ ってもうマガジンを十回は取り替えたから、つまりはたぶん少なく とも100人は殺した。 絶叫。血飛沫。生。死。何かが高速で擦れ違っていく。そしても う二度と出会うことが無い。 俺達は何だったのだろう。俺達は今までいったい何をしていたの だろう。なんだかひどくくだらないことを思い悩んでいた気がする。 虫のようにはいずり回っていた気がする。 そうだ。俺達は虫だ。虫のようにはいずり回り、そしてもうすぐ 虫のように死んで行く。 だが良い。もう良いのだ。俺達は虫であり、そしてその虫の生を 生きたのだ。苦悩を突き抜け歓喜に至ってしまったのだ。 だから息子よ。生きてくれ。虫の生を。孤独を。死を。歓喜を。 すぐ近くで血飛沫が上がった。となりのあいつが撃たれたのだ。 残念だ。最後に「ホームスイートホーム」が聴きたかったのだが。
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